めためためた
一応女子高生という設定だけど何も生かせていませんね。
「世界観を繋げるなーッッッ!!」
「うわどうしたいきなり」
それまで静かに本を読んでいた知人が発狂して、私は驚いた。
知人は、どちらかというとおとなしい部類で、私の話をよく聞いてくれる。その知人がいきなり発狂したので、私は大いに驚いた。
知人が読んでいたのは、とある作品の新刊である。
知人は、真剣な目で、私にとあるページを指差した。
「見てこれ! ここ! 名前だけ出てるけど、これ、作者の前の作品の登場人物の名前だよ! つまりこれ、これっ、一緒の世界観ってことになっちゃうじゃん!」
「はあ、それが? めっちゃファンサービスやん」
前作ファンへのサービスじゃん。
「はぁあ? わかってねえなお前は!」
おとなしい知人からの「はぁあ?」に、私は大変震えた。どのくらい震えたかというと、マグニチュード6からの震度1くらいだ。地盤が安定していて助かった。
「私は、作者の前作読んでないの!」
「読めば良いじゃん」
「ばかっ、ばーかっ! 世界観が繋がってるから読めないんだよ!」
「どういうこと? ていうか、人を軽率に馬鹿って言うな馬鹿」
「それに至ってはごめんね。つまりね」
いつの間にやら立っていた知人は、どかっと椅子に座った。
「前作を読んじゃうと、ある程度今の作品の結末が想像ついちゃうじゃん。これ、ファンタジーものだからさ、世界の根幹が前作では明かされてるわけでさ。あと、前作でハッピーエンドで終わったのにまた敵が現れるの、前作の主人公達に失礼だと思わないの?」
「いやそれが続編ってやつだろ」
「続編って言ってなかったもん! 言って、なかった、もん!!」
わざわざ区切ってお伝えしてくれた友人によると、続編なら続編ってそう言えやばーか! ということらしい。
「続編だったら、ある程度心づもりができてたよ!? あの戦いから何年後? はいはいって感じで。だけどさ、これ、違う作品だったじゃん! アルフが主人公のアルフのためだけの世界だったじゃん!」
「誰アルフって」
「主人公」
「そっかぁ」
「べ、別に前作を嫌うわけじゃないけどさぁ、世界を救うのは一人だけで良いっていうかさぁ」
「前例いるのは気に入らないわけだ。ファンタジーって、そういうところが難しいよね」
「いや、これはファンタジーだけじゃない」
「やべ、めんどくさいとこ触っちゃった」
うじうじと言っていた知人は、聞いて欲しそうに私を見上げてきた。私はため息をついた。
「ファンタジー以外でもダメなん?」
「ぶっちゃけ、恋愛でもダメ。世界観繋がってるのは地雷です」
「お前の地雷よくわかんねえな」
「だってよく考えてみてよ!!!!」
こいつ、声量でかいな、と私は思った。そろそろ取り繕うのもめんどくさくなってきた。
「んで? なんで地雷なん?」
「だってさぁ! 主人公と結ばれたヒロインは、どこの誰が見ても超絶可愛くてキュートな女の子って設定だよ!? それなのに、世界観同じで、どこの誰が見ても超絶可愛くてキュートな女の子を出すとか、作者頭やばくない?」
「やばくないと思うけど?」
やばいのはお前なんだよなぁ。
「はーっ、わかってねえわお前! いいか、ヒロインっていうのは、この世界に唯一無二の存在であり、主人公もまた同様。同一世界線上に、ナンバーワンは二人も存在し得ないんだよ。それはな、オンリーワンってやつなんだよ!」
「歌詞?」
「隣町って設定だとしても、この世界にはもうすでに最強カップルが存在するんだが? って感じ。頼むよお、違う世界線に行ってくれよお」
ふむ、と私は思った。
「そういえばさ、隣町に、やたらモテる男子高校生がいるらしくてさ、名前を、た」
「あのね、そういうのも地雷なの。どうしてヒロインだけが知る男の子の情報を、一介のモブである我々が知らなければならないわけ?」
「田村っていうらしいよ」
「誰だよ!!」