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恋愛図書館  作者: よつば猫
11月
9/46

 木枯らしが寂しさを誘う、11月。


 なるべく考えないように、むしろ必死に忘れようとしてたのに……

ふと自ら、去年の今頃の思い返す。




「あと、シューズボックス!

確か備えられてなかったよねっ?」


 イタリアンレストランで働き始めた俺は、さっそく同棲出来る部屋を借りて……

キミと一緒に必要な家具を買いに来ていた。


「……何の計算?」


「えっと〜、何足入るかなって」


「いやっ、最大18足って書いてるけどっ」

靴箱の容量を忙しげに数えてるキミに、笑いながら突っ込むと。


 キミはそんな自分に吹き出して。


「もおっ!

トイレ行きたいのに笑わせないでよっ」

意外なカミングアウト。


 忙しげな理由に納得したのと同時、楽しさがくすぐられる。


「あ、もしかして今ちょっと漏らした?」


「漏らしてないってば!

もぉ〜っ、ホントに笑わせないでっ……

とにかくっ、トイレ行って来るから待ってて!」


 笑いを堪えながら慌て去るキミが、とにかく可愛くて。

他愛ない戯れ合いが、楽しくて仕方ない。





 それから程なくして、結歌の引越しも終わり。

2人の同棲生活が始まった。


「料理苦手だし、料理人を前に申し訳ないんだけど……」

テーブルにはキミの初手料理、肉じゃが。


「料理人って、まだ見習いだよ。

それにあんな美味いスイーツ作れるんだから、自信持てよ」

期待たっぷりで、そう箸を伸ばすと……


「……どお?」


「……おいしい、よ。

頑張ってる味がする」


「それ微妙ぉ〜!

だから苦手だって言ったのにっ」


「じゃあさ、教え合いこしよっか。

俺もそのうちドルチェ学ばないといけないし、結歌ならスイーツの腕がプロだからすぐに上達するよ」


「そーかなぁ……

でも教え合いこは賛成です!

けどスイーツが得意なのはね?

仕事柄もそーなんだけど、子どもの時からのキャリアがあるからなんだよね」


「へぇ、夢がケーキ屋さんだったとか?」

俺の何気ない質問が……

キミの語りに火を点ける。


「惜しい!

夢はカフェ屋さんですっ。

だってケーキ屋さんだと、みんなの食べる顔が見れないでしょ?

その点カフェは、目の前でその顔がたくさん見れます!

美味しそーな顔とかぁ?

喜んでる顔とか幸せそーな顔とかっ。

もうこっちまで幸せになっちゃうしっ、最っ高に楽しいと思わない!?


もともとはねっ?

お父さんが甘い物大っ好きで、作り始めたんだけど。

いつもすっごく喜んでくれて……

めちゃくちゃ美味しそーに食べてる姿が嬉しくてさぁ!

それからお菓子作りにハマっちゃって。

今ではもっともっと、たくさんの人のそーゆう顔が見たいなぁって」


「あぁ、その気持ちは解るかも。

俺もそんな感じで料理に興味持ったかな」

脳裏には、俺の料理を幸せそうに食ってた親父の姿が浮かんでた。


「ほんとにっ?

なんか共通点すごく嬉しんだけど!

それに私もねっ?この道でトップを目指してて。

って言っても、一流パティシエールとかじゃないよ?

要はカフェ経営!

自分の店を持ちたいのっ」


 眩しいくらい目を輝かせてるキミに……

俺まで希望に包まれる。


「いいね、そーゆうの。

じゃあしっかり料理の腕も鍛えないとな?」


「それ、遠回しに下手ってゆってるんですけど〜」


「あ、ごめんそうじゃなくてっ……

えと、スイーツだけじゃ経営厳しいだろ?」


「フォローになってませーん。

しかも今の店はスイーツカフェでーす。

だから大丈夫なのです!

ケーキとか焼き菓子のテイクアウトもする予定だし。

あ、今の店のパクリなのはシーっです」

そう人差し指を口に当ててるキミが、すごく可愛い。


「楽しそうで、いい夢だね」


「ありがと!

これもお父さんのおかげかなっ」


「仲良さそうだね。

結歌って愛情いっぱいに育っただろ?」


「っ、わかるっ?

おてんばだったから怒られる事も多かったけどっ、ほんとすっごく仲良い家族なの!

道哉はっ?どんな風に育った?」


「俺は……普通だよ」

浮かんだ遣る瀬無い過去で、この楽しい空気に水を差したくなかった。



 キミと居ると本当に楽しくて……

キミもそうだったらいいなと思う。



 だから……


「うん、うん……わかるっ!

それで同じ事やっちゃうんだよねっ。

でも麻里ちゃんなら上手く切り抜けそう……

やっぱりっ?」


 キミの長電話は、少し寂しい。



「マリちゃんと仲良いな。

昨日も会ってなかったっけ?」

電話を終えたキミに問いかける。


「えっ?

あ〜うん、それは……」


「あ、そっか。幼馴染みだっけ」


 巧の指名客も含めて出会った日のメンバーは、短大時代の友人らしい。

だけどマリちゃんだけは、小・中も同じだったと本人が言ってた。


「……うん。

それよりっ、長電話しちゃってごめんねっ?

お詫びにぎゅーってしてあげるから、おいでっ!」

ニッコニコの笑顔で両手を広げるキミは、めちゃくちゃ可愛いけど。


「……バカ」

子供扱いされてるようで、恥ずかしくて照れくさい。


「あ〜っ、素直じゃないなぁ!

じゃあ勝手に抱きついちゃうっ」

言うなりそうして来たと思ったら。


「わっ……

バカ、やめろって!」

いきなり脇腹をくすぐられる。


 そのまま2人でくすぐり合って、バカ笑いを響かせた。


 キミと出会うまで、こんなに笑った事があっただろうか……

自分でも信じられないくらいだ。


 ずっと女を憎んで来て。

バカ女に罪科を下す、なんて歪んでたクセに。

こんなに誰かを好きになるなんて……


 きっとキミだから、好きになったんだ。


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