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恋愛図書館  作者: よつば猫
10月
7/46

「おっ!

いい秋晴れだねぇ、気持ちがいいなぁ。

そう言えば、お前が来てから1年経ったんじゃないか?

よく働くし、勉強熱心だし、当たりくじ引いたよなぁ」

働いてるイタリアンレストランの店長が、しみじみ呟く。


 イタリアンレストランといっても、カジュアルな創作イタリアンで。

複数の飲食店をグループ展開する会社が経営してた。


「当たりくじって……

賭けで採用したんですか?」


「いやいやっ、予想以上って意味だよ。

雇ったのはお前の前向きな姿勢に惹かれてな!」


 前向きな姿勢、か……

けどそれは結歌のおかげだった。




「今日は就活しないの?」


「ん、結歌休みだし。

それに就活しても、どこにも相手にされないし。

もう日雇いとかでいっかなって」


 高校時代はバイトで生計を立ててたけど。

卒業してからはホスト以外で働いた事ない俺は、正社員としては尽く相手にされなかった。


 でもホストを辞めた今。

貯金はそれなりにあるけど、いつまでも無職でいる訳にもいかず諦めてた。


「……道哉はどんな仕事がしたいの?」


「どんな仕事って……

別に、条件が合えば何でもいいよ。

まぁ、料理系とかは興味あるけど」


「料理!?

え、スゴイっ、いーじゃん料理!

ね、チャレンジしまくろうよっ」


「んん、でも今んトコ条件に合う会社は経験者希望なんだよな」


 飲食店の正社員はただでさえ勤務時間が長いのに、ライフスタイルの深夜化でどこも遅くまで営業してるし、移動(転勤)も多い。


 折角ホストを辞めたのに、それじゃあんまり意味なくて……

結局、結歌とのライフスタイルがすれ違う。

俺の身分で贅沢言ってらんないけど。

地元企業で、なるべく日勤帯に近い形で働きたかった。


「そんなの目安だよっ、受けてみなきゃわかんないじゃん!

よしっ、さっそく電話してみますかっ」


「無理だって。

俺の経歴で、しかも未経験とか、受けるだけ時間の無駄だよ」


「あ〜っ、逃げ口実!

弱気になってちゃ何も変わんないよ〜?

ソコがダメでもさっ、面接を機に違う提案が出されるかもしれないよっ?

例えば〜、求人誌に出してない姉妹店を紹介されるとか!」


 確かに、一理ある。


「とにかく、行動してたらさっ?

見えないトコで気付かないうちに、何かが少しずつ変わってくんだよっ。

よくタインマシンとかの話でさ、僅かな行動で違う未来になったりするじゃない?

そんな感じっ?

だから、何とかする!だと大変に感じるけど。

動けば少しずつでも、何とかなってくんだよ。

ただ変化のスピードが自分の理想と違うから、焦ったり無意味に感じたりするんじゃないかな?」


「っ、語るねぇ」


「へへっ、語りますっ」

そうはにかんで笑うキミ。


 うっ、不意打ち。

なんて可愛い顔するんだ……


「あ〜!ニヤついてぇ。

もしかして引いてるっ?」


「やっ、引いてないよっ」

含み笑いを抑えながら。


 やれるだけやってみようと思った。


 そしてチャレンジするからには、気持ちだけでも勝ちに行く。

結歌が気付かせてくれたチャンスを無駄にしたくないし、しっかりしてる結歌に男として負けてられない。


 何より俺は、料理が好きだ。

巧や親父が、いつも俺の料理を幸せそうに食ってた姿は……

ささやかな生きがいだった。





 そんな俺の気持ちが通じたのか……

面接の結果は、まさかの合格。

10月1日付での入社となった。


 その日は紹介や説明だけの半日終了で。

夜は結歌が就職祝いをしてくれた。


「入社おめでと〜!

明日から頑張ってねっ」


「ありがとう。結歌のおかげだよ。

俺さ……

今日改めて、この道で生きてこうって。

この道で何らかのトップを目指そうって。

夢ってゆうか、目標が出来たんだ」


「道哉カッコいっ!応援するねっ?

じゃあ私は味覚と試食係を極めますっ」


「ぷくぷくなっちゃうよっ?」


「ぷくぷくなったらイヤっ?」


「俺はいーけど!

むしろ、ぷくぷく結歌も見たいかも」


「うっそだぁ〜!絶対ウソっ!」

なんて、嬉しそうに笑うキミ。



 そして帰り際。


「道哉図書館に新刊で〜すっ」

とまた、1冊の本をもらった。


 それは料理の化学反応とか原理が書かれた、哲学的で面白い話題本。



《ステキな門出のお祝いに、メッセージ本を贈ります。


料理道入門、おめでとう!

これからの自分にワクワクしてますか?

好きな事を仕事に出来るのは、幸せ事だと思います。

私も自分の事みたいに嬉しいです。

それでも想定外な事はあると思うけど、初心を忘れず楽しんでねっ!


だけどムリは禁物です!

疲れた時は甘えんぼ道哉になって……

めいっぱい支えさせてね!》


 例のごとく、見返しにはメッセージ。


 どうしよう……

結歌は帰ったばかりなのに、今ものすごく抱きしめたい!


 その気持ちを紛らわすように、ページをめくると……

あまりに興味深い内容で、いつしか夢中になっていた。


 メッセージカードなんて何の役にも立たないけど。

メッセージ本だと2度楽しめて、相乗効果でどっちも役割を増す。


 今更ながら……

楽しさ見つけ見習いの結歌らしい思い付きだと、微笑ましく思った。




 そうだった。

俺の夢はそのあと形を変えたけど……


ーこの道で生きてこうって。

この道で何らかのトップを目指そうってー

もともとはそれが夢だった。


 最後のメッセージに書いてた俺の夢は、それを指してたのか……


 そうだな。

そのあとの夢はもう叶わない。

キミと一緒に、何事もなかったように消えたんだ。


 前向きな姿勢も、もともとの夢も、楽しむ事とかも、全部キミのおかげだけど……

そう導いてくれたキミだからこそ、この結末とのギャップに余計腹が立った。


 キミを愛してたのに。

俺達の愛は揺るぎないと思ってたのに。

許せないと思いながらも、心のどこかで……

仲直りの言葉を待ってたのに。


 キミが出て行って……

俺はまた、辛苦の渦中に突き落とされた。



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