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恋愛図書館  作者: よつば猫
9月
6/46

「ごめん結歌、5分も居れなかったけど……」


「ううんっ、私こそ忙しのにごめんねっ?

どうしても誕生日に直接会って、おめでとうが言いたくて……

それにココは私達が出会った場所だし、罪歌くんとして最後に頑張る姿を見ときたかったんだぁ」


 そう笑う結歌が愛しくて……

キスしたい衝動を抑えるのに苦労した。





「俺のタルトが……」

しばらくして、帰る結歌の見送りに戻ると。

テーブルにはひと口分しか残ってないフルーツタルト。


「うん、巧……煌くんと瞬くんを筆頭に、席についてくれたコが食べてったよ?」


「あいつらっ……

しかも瞬の奴、ひと口っつってたクセに」

送りながら愚痴ってると。


「まぁまぁ、また作ってあげるからっ」

そう撫で撫でされて。


 胸が跳ねて、表情が強張った。


「あ、ごめんっ。

セット崩れちゃうねっ」


「いいよ、むしろ……

今すげぇ抱きしめたい」


 そう見つめると、キミは照れくさそうに戸惑って。


「明日いっぱい抱きしめてねっ」

クシャッと、たまらなく鮮やかに笑った。


「結歌、それ余計煽ってる」


「お仕事中なので我慢して下さーい。

代わりにねっ?

はい!プレゼント。

これをぎゅ〜っとして下さいっ」


「えっ、ありがと……

つか嬉しいけど、無理してない?」


「してないよっ?

ソコは素直に喜んで欲しいなっ」


 仕事柄、喜ぶ反応なんか得意分野な筈なのに。

フルーツタルトを貰った時もそうだ。

ほんとに嬉しいと、こんなにも不器用な反応。


 伝え切れないほどの喜びを、どう表現したら伝わるのか戸惑って。

なのに全部伝えたくて、解んなくなって。


「っ、喜んでるよ。

ほんとに、嬉しくて堪らないんだ……」


 誕生日なんかどうでもよかったのに、こんなにも幸せに感じる日が来るなんて。


「じゃあ涙を拭いて〜?

その喜びを仕事のエネルギーにして頑張って下さいっ」


「泣いてねぇよ……

まぁ心ん中は、嬉し涙の雨だけど」


「うわクッサ!さすがホストだね〜!

私も今度使ってみよっ」

楽しそうにケラケラ笑って、感動をブチ壊すキミ。


 いや今のは素で言ったんだけど……

でも楽しさは感染する。


「だったら使用料もらうよ?」

乗り込んだエレベーターの中で、触れるだけのキス。


「あとこれは、ありがとうのキス」

今度は熱く深く、それを重ねた。



 結歌からのプレゼントは、一流ブランドのネクタイだった。

昼間は就活に励んでる俺へのエールに感じて、思わず笑みが零れる。


 紺ベースのそれは、クールな大剣とは異なって、明るめなパターンの小剣。

個性を主張するような、遊び心を覗かせるような、なんだか楽しくなるデザインは……

結歌らしいチョイスだと思って、また笑みが零れた。


 そしてもう1つ。

プレゼントの包みには、1冊の本も入ってた。

それは、道の写真集。


 俺の名前にちなんだシャレか?

なんて、心で突っ込みを入れたけど。

たぶん名前にも由来してんだと思う。


 だけどその本の意味はもっと深くて……

表紙をめくった先の見返しに、その答えを見つけた。



《新しい道に向かってる道哉へ


22歳の誕生日、おめでとう!

道哉が生まれて来た事、そして出会えた事に、めいっぱいの感謝です。


記念すべき、私が祝う最初のBDだけど。

この先もずっと今日の日を祝い続けたいと思うので、これからもよろしくです!


さてこの本ですが、道哉はどんな道を歩きたいですか?

未来のヒントに繋がれば、と思います。

さらには旅行気分を味わって、ワクワク楽んで頂ければ!と思います。


そして重要なお知らせです。

これからも記念行事の度にメッセージカード、を進化させたメッセージ本を贈ります!

道哉図書館の本を、思い出と一緒に増やしてこーね♡》


 可愛くて力強い文字で綴られたメッセージと、深い思いが……

胸に迫る。


 そっか……

この本は、進化した豪華過ぎるメッセージカードな訳で。


 新しい道に……

それで道の写真集か。


 旅行気分を味わって……

旅行経験がない事も覚えててくれたんだな。


 パラと先をめくると、そこは新世界のようで……

ただただ果てしなく続く一本道。

鮮やかな花畑に挟まれた穏やかな道。

あり得ないくらいグニャグニャの曲がり道。

森の中に佇むような幻想的な道。

先の見えないデコボコの登り坂道。

消えかけた廃道や、荒野の雄大な岩道。

その先に楽しさを予感させるような、光降り注ぐ道。


 俺はそこに立っているような錯覚に陥って……

ほんとにワクワクしながら夢中になってた。


 未来のヒントに……

確かにこの道達は、不思議と未来への希望や勇気を与えてくれる。


"道哉はどんな道を歩きたいですか?"

どんな道かな?

今はまだ考えつかないけど、1つだけ確かな気持ちは……

どんな道でも、キミと一緒に歩みたい。


 そして……

"道哉が生まれて来た事、そして出会えた事に、めいっぱいの感謝です"


 なぁ結歌、ありがとな……

俺は初めて、生まれて来て良かったと思えたんだ。




 バカバカしい……

それがこのザマかよ。

下らな過ぎる過去に嘲笑いが込み上げる。


 ふざけんなよっ!!

1人きりの部屋に響いた虚しい嘲りが腹立たしくなって、テーブル上の本を払い落とした。


 呆気ないもんだな……

この1年なんだったんだ!


 重ねて来た思い出も、俺との未来も、あっさり切り捨てて……

最後まで何も言わずに出てくんだな。


 確かにキミが消えるのを願ってたし。

冷たく避け続けて、出て行くように仕向けてたのは俺だ。

なのに、なんだこの焦燥感はっ……


 クソっ……

イライラして、胸が詰まってやり切れない!


 自分の気持ちが矛盾してるのは解ってる。

だけど、何も言わずに終われるほど……

そんなに俺はどうでもいい存在だったのか!?

俺と離れても、こんな形で終わっても、それでも平気なのかっ?


 ふと、払い落とした本に意識が留まる。

それは俺が欲しがってたイタリア料理のバイブルで。

床に崩折れたそれを手に取り、すぐに目当ての見返しを開いた。



《プレゼントを兼ねて、この本を贈ります。


23歳の誕生日、おめでとう。

そして、本当にごめんなさい。

今までありがとう。

道哉の夢が叶いますように》


 それだけ?

この状況でそれだけなのかっ?

だいたい、夢ってなんだよ……

今さら何の夢だって?

からかってんのか!?

ふざけやがって!


"道哉図書館の本を、思い出と一緒に増やしてこーね!"

図書館が聞いて呆れる。

きっとこの本が最後の本で、贈られたのは全部で13冊。


 俺の図書館は胸クソ悪い形で閉館されて……

キミへの憎しみだけが残った。



 クソっ!女に心を許した俺がバカだった……

こっちこそ、お前の事なんか忘れてやる!


 微塵も思い出せないくらい……





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