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恋愛図書館  作者: よつば猫
終わり
4/46

 案の定、侮辱の言葉をぶつけられたけど……


「仰る通り、決して胸を張れる仕事じゃないですし、僕自身も後ろめたい事をしていたと自責していますっ。

ですが結歌さんのおかげでっ、」


「貴様は頭がおかしいのかァ!?

どう考えてもうちの娘と不釣り合いだろ!

まともな家が腐った人種を受け入れると思うのかっ?

身の程を知れっ!」

俺の弁明は、問答無用で切り捨てられた。


 つーか……

まともな人間が、知りもしない初対面の相手をそこまで侮辱するのかよ。


「大体ホストなんかになるような息子を育てた親も、ろくな人間じゃない!

どんな教育を受けて来たんだかっ。

そんな家に嫁に行かせるくらいなら、一生独身の方がまだマシだっ」


 確かに、ろくな母親じゃなかったよ。


「っっ……お父、さんっ」

ずっと黙ってた結歌が、そこでやっと一言漏らす。


「お前は黙ってろっ!

とにかく、2度と結婚などと口にするな!

次は貴様の親に怒鳴り込むからなっ?」


「親はもう、他界してます」


 少し怯んだ空気も、束の間。


「なるほどな、ダメ人間に拍車がかかる訳か。

まったく、こんな素性の怪しい下らない男に騙されるなっ!

お前はまだ世間知らずで解らないだろうが、この男は見るからに普通じゃないっ。

さっさと別れて戻って来い!

いいかっ?

この手の人間に関わると、全てを食い潰されて残るのは絶望だけだっ。

お前は頑張って来た人生を棒に振っていいのか!?

こんなクズ人間と関わらせる為に苦労して育てた訳じゃないぞっ」


 声を荒げて延々と、俺をなじる言葉だけがこの場を埋め尽くして……


 チラと一度、隣に視線を流すと。

キミはただ俯いて、ひたすら黙り込んでいた。


 俺っていったい、なんなんだ……

見過ごすキミも、なんなんだ?

俺がお前らに何したってんだよ……

ここまでバカにされる筋合いはない。


「わかったのか結歌っ!」


「っっ、はいっ。

ごめんなさいっ、お父さん……」

トドメはこれだ。


 謝るのはそっちか。

それはつまり……

侮辱の内容も含めて、別れを促す言葉にも同意したって事なのか?


 そんな簡単に気持ちが翻んのか?

その程度の想いだったのか?

自分をまともぶってるだけの最低な発言に、何も感じないのか?


 もはや崇拝だな……

気持ち悪い。

しかも親は親で何様だ?

お前ら家族がどれほどのもんだよ。

むしろこっちこそ、こんな家族の一員なんか願い下げだ。


「失礼しました」

一礼して、足早にその家を後にした。



 バカバカしい。

結局キミも憎むべきバカ女だった。

私も頑張る、が聞いて呆れる。

あれだけの侮辱に対して、最後までたったの1度も反論しなかったクセに。


 別に庇って欲しかった訳じゃない。

だけど改めて。

自分の立場が1番で、守られたいだけの生き物だって思い知らされたよ。


 つくづく、その場の感情に流されて簡単に裏切る生き物だ。

やっぱり女なんてみんな同じだった。





 だけど夕方、キミは帰って来た。


 そうか、荷物があるからか……

そして当然気まずそうだけど、相変わらず黙ったまま。


 まぁ今さら何も言えないか。

弁解の余地なんてある訳ない。

俺も同じく何も言わずに。

入れ替わるように家を出て、巧の家に向かった。


 今日は泊めてもらおう。

結歌と一緒に居たくない。





「泊まんのか?

いーけど突然だな。

結歌ちゃんとケンカでもしたか?」


「やめてくれ。

今はその名前聞きたくもない」


 巧はやれやれといった感じで溜息を吐き。

一杯やるか!と、休肝日のクセに気分転換に付き合ってくれた。



 次の日からは……

働いてるイタリアンレストランで、何かと仕事を見つけては居残って。

遅めの終業時間を更に遅くした。


 休日は巧の家に、その出勤時間まで居座った後。

ぶらぶら飲み歩いて、同じく遅い帰宅。


 そんな俺の所為か……

キミの表情は暗くなって、日に日にやつれていった。


 だからって自業自得だろ。

むしろ、わざとらしくさえ感じる。

つーか、いつ出てく気だよ?

どーゆうつもりか、荷物をまとめる気配すらない。


 親の意見に同意したんじゃなかったのか?

その証拠に、謝ってくる気配もない。


 何考えてんだ?鬱陶しい。

何にしろ、もう修復なんて不可能だ。

一緒に居ても、楽しいどころか息苦しい。


 キミへの興味は不信感に変わって。

その愛情は憎しみに変わったんだ。



 なのに俺の分まで、毎日用意された夕食の痕跡。

綺麗に施された洗濯物。


 やめてくれ!

俺たちはもう終わったんだ。

そうだろ!?





「ま〜アレじゃね?

住むトコ探してて、決まるまで居候させてもらう為のギブ&テイクってヤツ?」


 巧には最近、結歌との状況を説明した所だ。


「つーか、実家に戻ればいいだろ」


「バカ、うるさい親父さんなんだろ?

実家じゃ自由に恋愛出来ないから、1人暮らしが必要なんだよ」


「……つくづくバカ女だな」


 結歌はこの先も、誰かと恋愛を重ねていくんだな……

勝手にすればいい。


「まったく、女は怖いね〜。

あんな良い子で、お前の事を心底大事に想ってるよーに見えたんだけどなっ。

プロの俺らを欺くなんて、相当な女だよ」


 思い返せば……

結歌が泣いたのを見た事がない。

嬉しくても悲しくても、そこまで心を動かされなかったって事だろう。

俺への愛は薄っぺらいもんだったんだ。


 クソっ……

胸が痛くて遣り切れない!


「道哉……

そんな女、お前が心を痛める価値もない。

侮辱の言葉で傷付いてる恋人に、何もしない薄情な女だぞ?

挙句、想いを裏切って……

そんな状況でも謝るどころか、平然と居座るような図太くてデリカシーのない女だぞ?

こーなって良かったんだよ」


「っ、そうだな……」

願うは1日でも早く、俺の前から消えてくれ。


 そう俺たちは、あの日とっくに終わったんだ……





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