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恋愛図書館  作者: よつば猫
終わり
3/46

「水を得た道哉(とうや)!」

意味不明な発言で俺の本名を口にして、無邪気に笑う……

千川結歌(せんかわゆいか)


 出会った日が23歳の誕生日だったキミは、俺の1コ上。

その日連絡先を交換した俺達は、プライベートで会うようになって……

今では恋人になっていた。


「なんだよそれ」


「道哉の目の事っ。

出会った時は死んだ魚みたいな目だったのに、今はいい艶してる!」


 だとしたらキミのおかげだよ。

確かに俺は……

歪んだ正義で、下らない罪科にだけ興味を持って、死んだように生きてた気がする。


 だけど今は……

キミにだけ興味を持って、輝いてる景色を生きてる。


「その魚ってカツオ?」


「ああ!そーだねっ、カツオだねっ!」


 その由来は少し前に遡る。




「マリちゃんが言ってたけど、早坂くんって醤油顔なの?」


「さぁ、自分じゃわかんないけど。

まぁ醤油顔って言われる事は多いかな。

つか、なんで苗字呼び?」


「だって本名ってなんか照れる!

しぃ、今の新鮮さを楽しみたいのっ」


「さすが、楽しさを見つけるプロだね」


「見習いです!

でも、醤油顔で片付けられるほど爽やかじゃないよねぇ。

優しそうだけど影があって……

クセのある醤油顔?

あっ、カツオ醤油とかは!?」


 いや俺に賛同を求められても……

しかも散々な言われ様なんだけど。

なのに、楽しくてしょうがない。


「じゃあカツオ醤油顔でっ」

そう笑う俺に。


 キミの鮮やかな眩しい笑顔がこだまする。




 一緒に過ごす時間は、いつも楽しくて……

景色と同じように鮮やかだった。


 俺はホストを辞めて、キミと同棲し始めて……

付き合って1年後、結婚話へと進展した。



「ねぇ、やっぱり挨拶とかやめない?

うちのお父さん厳しいし、今ケンカしてる状態だから絶対反対されちゃうよ……」

結歌には珍しく、不安そうにマイナス思考。


「まぁ最初は反対されるもんだろ。

けどソコ乗り越えないと結婚出来ないし」


「出来るよ!

結婚は私達の問題だし、親とか関係ナシで籍入れちゃえば……」


 俺の両親は他界してる。

キミにはそう話してるから、余計そんな発想になるんだろう。


「そうはいかないよ。

結歌の家族だから、ちゃんと大事にしたい」


 そう言うとキミは、瞳をキラキラ潤ませて……

ぎゅっと唇を噛み締めた。


「大丈夫だって。

喧嘩の事は俺も一緒に謝るし、反対されても頑張るから。

ラスボス攻略、楽しもうな?」


「っっ、道哉……

んっ、そーだね、楽しもうねっ!

なんか楽しさのプロ、追い越されちゃったかなっ?

負けてらんないねっ、私も頑張るよ」



 だけど俺達は未熟で、弱くて……

頑張る覚悟なんて、したつもりの錯覚でしかなかった。





「誰だこの男はっ……

どーゆーつもりか知らんがっ、こんな奴と一緒なら帰って来るな!」


「あなたっ……

結歌が久しぶりに帰って来たのに、そんな……

話くらい聞いてあげてもっ」


「なんだお前……

この男が来るのを知ってたのか!?」


「っ、いえ私は……」


 結歌の両親の様子に。

今日の訪問が事前に伝えられてなかった事を悟る。


 その方が都合いいのか?と思いながらも、少しショックに感じた。

だったらそれを話して欲しかった。


「突然の訪問、大変失礼致しました」

戸惑って固まるキミの横で。

その場に素早く正座して、手をつき深々頭を下げた。


「どうしてもお目にかかりたくて。

一方的にご挨拶に伺ったご無礼、深くお詫び致します。

ですが名乗りもせずに、大事な娘さんと一緒に帰る訳には行きません。

どうか、自己紹介だけでもさせて頂けないでしょうか」


 結歌も慌てて頭を下げると……

僅かな沈黙が流れた。


「一緒に帰る、だと?

それはどーゆー意味だっ。

いいだろう、説明しろ」


「ありがとうございます。

僕は、早坂道哉と申します。

結歌さんとは、1年ほどお付き合いさせて頂いて、今は同棲しています」


 ダタン!と。

言い終えたと同時、テーブルを叩き付ける音が大きく響いた。


「ふざけるなっ!

これだから一人暮らしなんか反対だったんだっ。

こーやってだらし無い状況を招くのは目に見えてた!

だからあの時、縁を切ると言ったんだっ」


「いえ結歌さんはっ、とても真面目でしっかりした女性ですっ。

2人の生活を考えた上で、僕がどうしてもとお願いしたんです。

でも決して、いい加減な気持ちでそうした訳じゃありません。

ご両親の許可を頂かなかった点は、お詫びの言葉もありませんが……

僕にとって結歌さんは、唯一無二の存在で。

僕達は結婚を前提に、本気で付き合ってます!」


「結婚だと?

勝手な事を口にするなっ!

お前みたいな若僧に家族が持てるかっ。

どうせ仕事も中途半端だろうっ。

第一、そう言って娘をたぶらかしてるだけじゃないのか!?」


 家族が持てるか……

その言葉に、鋭く胸を突き刺されながらも。


「違いますっ……

誓って、違います。

僕はまだ22歳で、仕事の料理店も1年と経ってません。

ですが歳をとれば、長く働けば、相手を幸せに出来る訳じゃなく……

真剣な気持ちに、年齢も職歴も関係ないと思います」


「ふん、確率の問題だ。

実績と信頼は比例する。

あるに越した事はない。

だいだい1年足らずの仕事で、それまでは何してたんだ?

どうせコロコロと転職を重ねて来たんだろう」


 返事に一瞬ためらったものの。

嘘を吐いたらバレた時、余計こじれると思った。

それに、正直に話す事で誠意を示したかった。


「前職はずっと……

ホストクラブで働いてました」


「なんだと、ホスト?

バカにしてるのかっ!

そんな腐った奴が娘と結婚だとっ?

話にならんっ、今すぐ帰れ恥知らずめ!」


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