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恋愛図書館  作者: よつば猫
4月
26/46

「くっら〜い!

私はこう思うけどなっ?

何度散ってもまた咲き誇る、再生の象徴なんだって。

桜ってさ、すっごく傷つきやすい樹なんだよ?

なのに毎年頑張って……

負けないって訴えてるんだよ。

それにまた来年を楽しみに、希望が持てるでしょっ?」


 そう桜空を仰ぐキミが眩しくて……

俺のその暗い心まで照らされた気がした。


「結歌らしいね。

さすが楽しさ見習い」


「まぁこー見えても桜の化身なのでっ」


「……5月生まれなのに?」


「そおっ。

散った桜の負けないエネルギーが、1ヶ月かけて人に再生したのですっ。

ああっ!バカにしてぇっ」


「してないよっ。

あっ、花びら付いてるっ」

笑いを誤魔化すように、キミの髪を彩る淡紅色に手を伸ばすと。


「……だからね?

自分同様の桜よりも、道哉のほーが好きって事は……

それほど大事な存在って事だよっ?」


 さっきの会話に結び付けられた言葉と、それを照れくさそうな笑顔で口にするキミに。

胸が掴まれて、愛しさが溢れ出す。


「キスしていい?」


「っ、こんな人前でしちゃいますかっ」


「ん、結歌しか見えない」

感情のセーブも効かなくなって。


 桜を好きになれた昼下がり。

何度も何度も、桜の女神の花唇を欲した。




 そしてその夜、さっそく今月の新刊が渡された。

それはタイムリーな桜の写真集だった。



《エイプリルフールなので、メッセージ本を贈ります。


実は、道哉に隠してた事があります。

覚悟して聞いて下さい。

私、千川結歌は早坂道哉の事を……

1000年前から好きでした!

もちろん1000年前は存在してないので、魂レベルの話ですっ。


ああっ!嘘だと思いましたかっ?

本当です!

何度も何度も生まれ変わって、道哉に会いに来たのですっ。

信じるか信じないかは〜?

道哉次第です!


だけど。

次に生まれ変わっても、また恋人にして下さい。

ちゃんと道哉を見つけるから……

何度も、何度でも、隣に居させてね》


 うわ、どうしよう!

あまりに可愛い過ぎて、どうしょうもなく心が打ち付けられて……

最初は笑ってたけど、今や悶絶。


 すぐに、洗い物をしてるキミの後ろ姿を抱きしめた。


「うわっ、どーしたのっ?」

肩を跳ねて振り向いたキミに、すかさず唇を重ねる。


「っっ……

もおっ、邪魔しなっ、」

逃げたキミの言葉を遮って、また重ねる。


 そのままお互い溶けあって……


「……今日はやたらと、肉食獣だね」

キスの終わりに呟くキミ。


「そうかな?

でも前世じゃ結歌の方が激しかったよ」


「うっそだぁ〜!それはウソ!」


「あれ、覚えてない?」


「んん〜、どうだったかなぁ〜?」

なんてふざけ合って、笑い合う。


 ほんとにキミのメッセージみたいに、何度も何度でも……

こんな楽しい日々が、永遠に繰り返されればいいと思った。



 それから、その写真集を開くと。

そこには傷付きやすい筈の桜達が、災害で瀕死になりながらも、懸命に生き抜く姿が映し出されてて。


 どんな苛酷な状況でも、負けないって訴えてるような姿に……

心が揺さぶられて、胸が熱くなった。


「その桜達、すごいよね」

洗い物を終えた結歌に声掛けられて、ハッとする。


「あぁ、うん……

なんか見入ってしまってた。

結歌が昼間に言ってた通りだなって。

それに俺も、桜の化身になりたいなって……」


 俺もトラウマに負けたくない。

自分の人生を諦めたくない。


「なれるよ、道哉なら……

じゃあまず3級からねっ?」


「え、検定式っ?」


「そーです!

でも受検指導するので心配いりませんっ」

なんてまたふざけたと思ったら。


「でもさ、この桜にいつか会いに行きたいと思わない?

遠いから旅行になっちゃうけど」


「うん……

いつか連れてくよ」


 そう言うとキミは、輝かせた目を嬉しそうに細めた。


「楽しみにしとくっ!

じゃあその前に、来年はG公園に連れてって?

隣の県なんだけど、もうすっっごくヤバい絶景なのっ」


「うん、いいよ。

来年は、G公園だっけ?一緒に行こうな」




 結局はその約束も果たせないまま、嘘になってしまったけど……

そんな風に嘘吐きはお互い様だし。


 嘘を吐くのが日常的になってても、全部受け止めるから……

俺の隣に戻って来て下さい。


 1人G公園を訪れて、思いを馳せる。



 今思えば、キミが桜の化身だったのは……

ー負けないって訴えてるんだよー

辛い現実に負けないように、桜になろうとしてたからなんだろうな。

胸が苦しくなる。


 この1年、ますます後悔と恋しさに押し潰されそうだった俺は……

楽しさ見習いのキミを真似て。

キミとの再会シーンを何度も妄想したりとか、日々に楽しさをスパイスして凌いでた。


 その延長線で訪れたG公園は……

キミの言葉通り、ヤバいくらい絶景で。

約千本の桜トンネルと、眼下一面に輝く黄金の菜の花じゅうたん。

そして今日の澄みきった青空は、3色のコントラストを奏でてて。

圧倒されるような鮮やかさに、言葉を失くした。


 キミと一緒に見たかったよ。

この美景に負けないくらい鮮やかな笑顔を溢れさせて、俺の隣ではしゃいでたかもしれないキミを想って……

切なさに八裂かれる。


 そんな気持ちが、俺に幻を見せたのか……


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