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恋愛図書館  作者: よつば猫
4月
25/46

「え〜虐待された子供は、幼い頃から虐待の事実を隠そうとして、周囲に嘘を吐いて育つケースが多く。

このため、嘘を吐くことが日常的になっています。


その背景には、親による嘘の強要があったり。

誰かに話したことで更に虐待を受けるのではないかという、恐怖心があったり。

頼る者が親しかいないという世界感や、悪いのは自分だという思い込みがあります。


また、その嘘で固めた理想の自分を作る事で、虐待されている自分から逃避しているケースも考えられます。

そしてやるせないのは……

それでも親を愛して止まない、健気な思いや。

愛されたい、愛されてないのを認めたくないといった心情も、嘘を吐く要因の1つだと言う事です」


 自分の事とも重なるカウンセラーの話に、切なく耳を傾けながら……

結歌と照らし合わせてく。


 マリちゃんと話してから、1年。

俺は結歌を探す傍ら。

虐待に関するセミナーや講座、グループカウンセリングに参加していた。


 キミをもっと解ってあげられるように。

もう僅かなサインも見逃さないように。


 とはいっても、記憶の中からそのサインを見つけるのは困難で。

カウンセリングも、商売目的のものや当たり外れがあって。

勉強にはなっても、キミを理解するにはまだまだだ。


 だけど。

ー「仲良さそうだね。

結歌って愛情いっぱいに育っただろ?」

「っ、わかるっ?

ほんとすっごく仲良い家族なのっ」ー

そのささやかな嘘みたいに、キミは他にもそれを重ねてたんだろうな。


 でもそれは俺も同じで……

甘い言葉も、覚悟の言葉も、今となっては嘘でしかない。


 それに、故意に吐いた嘘も……

両親とも他界してるって言ったけど、母親は生きてる。

最後に会ったのが高1の時だから、多分だけど。


 親父が死んで、誰が保護者になるかって話し合いの時。

親族が探して連絡したようだ。


 当然話し合いに応じる訳もなく、断り続けてたらしいけど。

親族は納得せず、1度でいいから俺と会うように要求した。


 親子の絆にかけたんだろうけど……

そんなもんある訳ないのに。




「今さら蒸し返されても困るのよねぇ。

もうとっくに親子じゃないんだし、こっちにはちゃんとした家族がいるんだから……

はっきり言って迷惑かしらね。


そりゃあ可哀想な事したとは思うわよ?

でもあなただって、人の幸せを邪魔したくはないでしょ?


とにかく、憎んでくれていいから。

なんだったら、私も死んだと思ってくれて構わないわ。

そうね、むしろそう思ってちょうだい?」


「はい、とっくにそう思ってます。

だから、こんなとこ来てないで早く成仏して下さい」




 忌々しげな顔を置き土産にして、ただ俺の傷を無駄に抉っただけだった。


 事実はどうであれ、俺の中では死んだんだ。

もう2度と会う事は無いだろう。


 親子だからいつかは解り合える、なんて幻想なんだ。

そんな綺麗事じゃ済まされない親子関係や、修復出来ない絆はいくらでも存在する。


 だから……

虐待の断定的事実を知ってからこの1年は、結歌の実家を訪れてない。


 詳しい状況やその絆の程度が判断出来ない限り、下手に動けないし。

結歌が必死に隠して来た事実を、抑えきれない怒りで口にして、もっと事態を悪くしそうだったから。



 もしキミが、こんな悲しい問題を抱えてなければ……

もし俺にトラウマがなかったら……

俺達は今も笑い合ってただろうか。


 母親を主としたトラウマは、ザックリと根深くて。

あの日の結歌を……

結歌ですら例外なく、女を信じ切れなかった。


 だけど俺も、親父の冤罪を信じなかった母親と同じで……

結局は愛が足りなかっただけかもしれない。

本当の愛なら、例え自分が裏切られても相手の幸せを願える筈だ。


 でも今なら。

あの頃よりずっと、キミへの愛は膨らんで……

俺達の愛は、何度でも再生出来るって信じてる。


 キミと話した桜みたいに……




「うわぁ、満開!

ねねっ、ちょっと寄ってかないっ?

今買ったビールで、さっそくさぁ!」


 散歩がてらの買物帰り、キミの笑顔も桜みたいに満開になる。


「ん、いいよ。

っと、まだ冷えてるかな?

ツマミは……

結歌のスナック菓子でいい?」


「ええ〜っ、しょ〜がないなぁ!」

と嬉しそうにはしゃぐ。


「桜、好きなんだ?」


「大好き!

あっ、でも道哉のほーが好きっ!」


「え、俺桜と張り合ってんの?」


「あ〜っ!桜を侮ってるなぁ〜?

みんなが愛する日本一のアイドルだよっ?

むしろ、道哉は好きじゃないのっ?」


「俺はあんまり……

なんか諸行無常の象徴って感じで、儚いだろ?

こうやって幸せに囲まれてても、長くは続かない。

永遠なんてないんだって、訴えてるようで……」


 幸せそうに桜を眺めてる人達を映しながら、その象徴を自分の人生と重ねてた。


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