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今そのツケが回って来てるけど……
せめてキミの残したメッセージや思い出と向き合って、あの頃のキミを解りたいと思ってるんだ。
俺のと違って綺麗で寂しい見返しを映しながら、苦笑を洩らした。
そういえばあのホワイトデーの出来事も、俺のドス黒い感情が招いた誤解だったよな。
まぁ瞬は問題アリだったけど、結歌は無実だった。
もともと瞬は、結歌に一目惚れしてたようで……
だけど俺と付き合い始めた事で諦めたらしい。
そんなある日。
客を呼ぶエサに、ホワイトデーのお菓子を結歌の店に買いに来て。
忙しいのに親身にヘルプしてくれた結歌に、気持ちが再点火したようだ。
それから、女心が解らなくて仕事で行き詰まってるとかって相談を持ちかけて。
ホストとして情けないから俺には秘密にして欲しいと、口止めを頼んだらしい。
だからって秘密の相談を引き受けた事は、結歌も悪いと思う。
まぁ言い訳はしてたけど、何だったかな?
そして肝心のプレゼント本も、瞬が結歌に相談のお礼として渡したもので。
その時デートに誘って来た瞬を不審に思った結歌が、断ると同時にそれを返したらしい。
俺が目撃したのはそこかな。
結局は俺にバレてたから、結歌も瞬も洗いざらい話してくれたけど。
謝られても瞬には腹が立ったし、隠してた結歌には拗ねたりした。
でも喧嘩が甘さを引き立てるスパイスになって……
そのあとは濃蜜な夜になったっけ。
なんてまた思い巡らせて、手元の本を読み進めた。
今まで何度読み返しただろう。
仲直りした時に、強くなれる本だと紹介されたけど……
キミは何を抱えて、どんな強さを求めたのかな?
キミの心を宝探し。
透けるのはまるで、見すごした僅かなサイン。
「あれ、えーと……サイカくん?」
不意に、懐かしい源氏名で声掛けられて。
顔を上げると。
「………っ、マリちゃん!」
若干記憶を巡らせたものの。
瞬指名で何回か店に来てたし、結歌の幼馴染だから覚えてた。
「うわ懐かし〜!私よく覚えっ、」
「会えてよかった!
ずっと連絡取りたかったんだっ」
再会の興奮から、思わず話を割って食い付くと。
少し引き気味のマリちゃん。
「あ、ごめんっ。
1年くらい前から連絡してたんだけど、繋がんなかったから」
番号は、俺に頭が上がらない瞬から調達してた。
「あぁ〜うん、タイミング悪いね。
ちょうど1年間海外赴任してて、先月帰って来たとこなのっ。
キャリアでしょ?」
「そーなんだっ?
すごいね……」
「でしょ〜!
それでっ?
連絡取りたかったって、何の用?」
早速俺は、1人なのかを確認して同席を促した。
海外赴任してた事を考えると、結歌の居場所を知ってる可能性は低いけど。
幼馴染みの彼女なら、結歌が抱えてる問題は知ってるかもしれない。
まず居場所を尋ねると。
「知らない。
私はあの子が居なくなってから、それっきりだし。
てか何で探してるの?」
「何でって……
どうしても、会いたいから」
「えっ?
まさか今だに未練引きずってるとかっ?」
「……まぁ。
カッコ悪いけど……」
「ウソでしょっ!?
だってあれから何年経った?
しかもあの子、居なくなっちゃったんだよっ?
や〜、サイカくんイケメンなのに……
やっぱ結歌が選ぶ男は変わりもんが多いわ」
その結歌に失礼な発言や一括りにされた嫉妬で、少しムッとしてしまう。
「いや普通、居なくなったら見つかるまで心配するだろ。
逆にマリちゃんは、幼馴染みなのに心配じゃないんだ?」
「ごめんごめんっ!怒らないでよ。
まぁ私の場合は心配ってより、あの子らしいかなって。
昔から周りに壁作ってるタイプだったし。
それに私、結歌とは小・中一緒だっただけで、別に幼馴染みってほどじゃ」
言われてみれば……
幼馴染みって括りは、俺が勝手に決めつけてただけな気もする。
それより、周りに壁作ってるタイプだって?
しかもそれがあの子らしいだなんて……
「けどっ、結歌とは親友だろ?
あんなに仲良かったのに、とても壁作ってるようには……」
「仲良いって、それ結歌が言ったの?
そりゃあ短大で再会してからは、同じグループだったけど……
あの子は私を、友達だとは思ってないんじゃないかな」
俺だって元々、女ってゆう下らない生き物の友情なんて、輪をかけて下らないと思ってた。
だけど結歌はそんな女達とは違うと思ってたし……
「俺には、マリちゃんと長電話してる時の結歌は、すごく楽しそうに見えたし。
心を許してるように見えたよ」
「……えと、誰かと勘違いしてない?
私、長電話とかしないし。
結歌と電話する事もほとんどないけど」
一瞬混乱しかけたけど。
俺とは長電話の感覚が違うんだろう。
「けどマリちゃんには、壁を作ってたとは思えない」
「……作ってたよ。
サイカくんが知らないだけ。
今だから言っちゃうけどさぁ……
あの子たぶん、虐待されてたんだよね」
突然の衝撃的な言葉に……
瞬間、思考が停止する。
「ほら、知らなかったでしょ?
あの子はね、誰にも心を許さない。
そーやって嫌な事はぜーんぶ隠して、幸せな家族とか楽しい毎日を演出するの。
だから虐待の事実も誰も知らない」
言葉を耳に通しながらも、今までの色んな事が頭を駆け巡って……
必死にその混乱を切り離す。