表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛図書館  作者: よつば猫
3月
22/46

「だったら、そうする?」

試すような言葉を投げかけると。


 途端、キミが豹変した。


「なにそれ……

やってないって言ってんじゃん!

そんなに私信じられないっ!?

いーよもう私なんかっ……

私なんか要らないよねぇ!?

こんなメッセージだって鬱陶しいよねぇっ!?

わかったよもうっ、わかったってば!」


 すごい剣幕で逆ギレして、ビリビリと本を破った。


 呆気に取られてると……

キミはその本をゴミ箱に投げ捨てて、寝室に閉じこもった。


 その豹変には驚いたけど。

逆ギレとはいえ、そんなに怒るって事は……

別れたくないって事だよな?


 ゴミ箱の破られた本に切なくなりながら……

キミの心をそこから拾った。


 どうやら破られたのは、見返しのページだけで。

だけどその本はすごく綺麗な本だったから、余計申し訳なく感じた。


 すぐに見返しの破片を繋ぎ合わせて、テープでとめると。

不恰好になったそれには、少し読みにくくなったメッセージが両面ぎっしりに綴られてた。



《極上ディナーのお礼に、メッセージ本を贈ります。


ボーノですっ!

もうほっぺたが落っこちまくりで、何度拾っても間に合いません!

美味しい愛に、興奮の連続でっ。

心も身体もたっぷり満たされちゃいました!

改めて、めいっぱいの感謝を込めて。

ごちそうさまでした!


そして、おせちの時もそうだったけど。

料理を作ってる道哉は、なんだかセクシーで……

しかもすっごくカッコよくて、ドキドキ爆弾の炸裂でした!

だけど私の満足と反比例して、不満そうな道哉に……

ハラハラ台風が迷走中です。


私に、道哉の気持ちが分からないと思いますか?

はい!分かりません(笑)

道哉を本当に理解出来るのは……

今までの人生を全部見て来て、その時の気持ちを知ってる、道哉自身だけだと思います。


しかも私なんて、道哉検定でもまたまだ超初級レベルです。

でもね?

自分じゃ気付けない事もいっぱいあるだろーし。

私は誰よりも、不可能だとしても道哉以上に!

道哉の事を分かりたいと思ってます。


もっともっと知りたいです。

全てを受け止めていきたいです。

時間はかかるかもしれないけど、道哉マスターを諦めません!

だから教えて欲しいです。

なんでもぶつけて欲しいです。


話してくれたら嬉しいナ》



 心が、震えた。


 俺もキミの心が知りたくなって、さらにそれを拾おうと……

本の内容へとページをめくった。


 トレーシングペーパーで作られたその大人絵本は、とても繊細で……

人の心みたいだと思った。


 透ける仕掛けは宝探しみたいで楽しくて。

でも綴られた言葉達は少し切なくて。

心がそっと上がったり下がったり、ハッとさせられたり。


 それはまるで人生のようで……

だから読み解くのが少し難しくて。

真剣に心を傾けながら、ふと思う。

こんな風に俺は、キミの心を読み解こうとしてたかなって。


 そんな絵物語のラストは……

愛を見失わないようにと、心の背中を押してくれるようで。

ほんとは気付いてるんだ……

向き合う事から逃げてる事を。


 瞬と浮気してんじゃないかとか。

むしろ瞬に心変わりしたんじゃないかとか。

特別に感じてたメッセージ本は、結歌の手口だったんじゃないかとか。


 それどころか、もともと女に悪いイメージしかなかった俺は……

もっともっとドス黒い想像で埋め尽くされてた。


 だからキミの口から、瞬が他愛もない理由で店に来たって話が聞きたかったのに。

隠されると、想像通りだと物語ってるようで。

怖くて深く聞けずに、キミとちゃんと向き合う事から逃げてたんだ。


 俺の気持ちなんて解らない、なんて拗ねてたけど。

俺なんか、キミの心を知ろうとすらしてなかった。


 "道哉の事を分かりたいと思ってます"

心を震わせた、その言葉と続く言葉。


 俺だって、結歌の全てを受け止めるつもりでいたのに……

行動の伴わない包容力が情けない。


 メッセージ、破らせてごめんな……

鬱陶しいだなんて誤解もさせて、ごめん。


 "話してくれたら嬉しいナ"

うん、今からちゃんと向き合うから、今夜はとことん話そっか。


 キミの言う通り、解り合うには時間がかかるだろうけど……

諦めずに、ゆっくりと。




 結歌のお気に入りだったブックカフェで……

3月にもらったその本を見つけて、そんな思い出にふけってた。


 必ずキミを見つけ出すと誓ってから、1年。

ここで偶然の再会が起きないかな?

なんて僅かな可能性に縋って。

休日は思い出の場所とかキミの好きな場所、行きたいと話してた場所や行きそうな場所を巡ってた。


 もちろん結歌の実家にも何度か訪れたけど、あれ以来は門前払いだ。

交友関係も当たってはいるけど、相変わらず手掛かりはない。


 どこに居るんだよ……

もしかして県外とかかな?


 "料理を作ってる道哉は、なんだかセクシーで……

しかもすっごくカッコよくて"

このメッセージは更に俺をやる気にさせて。

今なら、あの頃よりもっと美味しい料理を作ってあげれるのにな……


 どうしてあの時……

なんて、バカみたいな後悔も繰り返してきたけど。

結局あの時も、また向き合う事から逃げてたんだ。


 人なんて簡単には変われない。

俺はまたキミを信じられなくて……

別れの意思を知るのが怖くて……

簡単に諦める事や憎む事で、自分の心を守ったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ