2
俺の意味深な態度の所為か……
お互い、言葉少なに食べ進める。
「ねぇなんか、怒ってる?」
「……怒ってないよ。
ただ……
なんか俺の話、はぐらかしてない?」
「えっ?
そんなつもりないよっ?どの部分っ?」
「……だったらいいよ。
最後、ドルチェ入る?」
「……うん、意地でも食べるっ」
先に食べ終わった俺は、ドルチェの準備に取り掛かった。
あくまで話す気は無いんだな……
沸き起こってくるドス黒い感情が、抑えきれなくなりそうだ。
「これっ、意外とあっさりでペロッといけちゃうねっ?
エスプレッソも美味しいし!
私の得意分野まで、あっさり道哉に持ってかれちゃったなぁ」
「まさか。
カッサータは簡単だから、結歌ならもっと美味く作れるよ」
「謙遜は逆に惨めになるので止めて下さーい。
もう全部ねっ?
味も好みだし、盛り付けもキレイだし、贅沢三昧だしっ。
料理でこんっな満たされたのは初めてですっ!
ありがとぉ、道哉。ごちそうさまです」
すごく嬉しい言葉と、満足そうな笑顔をもらったのに……
僅かな微笑だけ返した。
「お礼に後片付けはさせて下さいっ」
「いいよ。
片付けまでがプレゼントなんだから。
風呂入って先に寝てろよ」
俺の素っ気ない口調に。
当然反応する結歌。
「やっぱりなんか怒ってる……
ねぇ、はっきり言ってくんなきゃわかんないよっ?
ちゃんと話して?」
こっちのセリフだよ……
ドス黒い感情が溢れ始める。
「話しても解んないよ。
俺の気持ちなんて、結歌には解らない」
冷めた目で牽制して。
片付けの邪魔だからと、その場をかわした。
今日の為に頑張って、キミを喜ばせたかっただけなのに……
何でこうなったんだろう!
自分が情けなくて、悔しくなる。
その日はドス黒い感情に翻弄されながら、ソファで眠った。
その感情は……
嫉妬、独占欲、執着心。
俺は、それらをどう扱えばいいのか解らなかった。
だって、キミと出会って初めて芽生えた感情だから。
上手く処理出来ないし、きっとその感情は強い。
例えば……
何で俺だけじゃないんだよ!って、キミの過去の男に激しく嫉妬したり。
俺の世界に閉じ込めて独占したかったり、四六時中一緒に居たいと執着したり。
もちろんそんな訳にはいかないから。
抱き合う時はおかしくなっても、普段は感情をセーブしてそれらを封じ込めてた。
だけど今日の瞬との一場面や、それを隠そうとしてるような結歌の言動に……
ドス黒い感情は制御を失う。
かといってそんなもんで結歌を縛りたくないし、それを暴露して嫌われたくもない。
結局どうする事も出来ずに持て余して、ひとり苦しむ。
そんな俺の気持ちなんか、キミにはきっと解らない。
俺以外の男とも恋愛を重ねて来たキミに……
キミが唯一な俺の、この狂いそうな気持ちは解らない。
そして俺は避けるように……
キミが起きる前に家を出て、仕事に向かった。
だけど仕事中、それらの罪悪感に苛まれて……
帰ったら謝って、仲直りしようと思ってたのに。
「昨日はありがとうっ」
帰宅後、何事も無かったように笑顔で本を差し出して来た結歌。
瞬間、昨日の瞬との場面が浮かんで。
再びドス黒い感情に支配された俺は、バシッとそれを払い退けてしまう。
当然ビビりなキミは、ビクッと肩を跳ね上げて。
酷く驚いた表情で固まっていた。
「っ、ごめんっ」
ハッと我に返った俺は、咄嗟にその手を掴むと。
「っっ、嫌っ!!」
今度は逆に払い退けられた。
俺が悪いから当然なんだけど……
だけど。
拒否られたショックが、心を凍りつかせて。
ゆっくりと本を拾うと、それを冷ややか目で差し戻した。
「こーゆうの、もう要らないから」
「え……
どーゆう、意味?」
「どーゆうって……
他の奴にもやってんだろ?
そんなもん要らねぇよ」
「えっ?
やってないよっ?
道哉が初めてだしっ、道哉にしか贈ってないよっ?」
俺が何も知らないと思って嘘吐くのか……
情けなくなって冷笑が漏れた。
「もういーよ。
そんな女だとは思わなかった」
「っ、なんでっ!?
ほんとにやってないのにっ……
ね、なんで信じてくれないのっ?」
「だからもういいって!」
「よくないよっ!
お願いだから信じてよっ」
信じて、か……
あくまで嘘を吐き通す気なんだな。
「……もういいって言ってんだろ?」
酷く冷めた視線を突き刺した。
「っっ……
もういいって、別れるって事?」
何でそこまで話が飛躍するんだよ。
この話はもういいって意味で、俺はキミと別れる選択肢なんて考えられないのに……
キミにはその選択肢があるのかっ?