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恋愛図書館  作者: よつば猫
3月
20/46


「うん、なかなか上出来だ。

お前ほんとセンスあるなぁ!」

俺の試作料理を味見する店長。


「わっ、なになにっ?新メニューですかっ?」


「いやいやっ、ただの料理指導だよ。

こいつが彼女へのホワイトデーに、コース料理をプレゼントするらしくてな」


「え、いーな彼女さんっ、羨ましい!

なんか愛されてるなぁ」


「だよなぁ!

こうやって連日、美味いもん食べさせようと頑張ってるんだからなぁ」


 割り込んで来たバイトの染谷さんと、俺の話で盛り上がるのはやめて欲しいけど……


「いえ、いつも休憩時間を割いてまで教えて下さって、ありがとうございます」


 家庭料理は得意でも、プロの本格的な料理はまだまだ駆け出しだから。

おせちの時もそうだけど、いつも快く教えてくれる店長には感謝してる。




 そしてホワイトデー当日。


 その日、姉妹店でトラブルが起きて……

俺が休憩時間を利用して、ヘルプする事になった。


 自ら引き受けたのは、その姉妹店が結歌の働いてるスイーツカフェの近くだからで……


 空腹も気にならない思いで、ヘルプ作業を終えると。

さっそくそのカフェを前にした。


 俺が現れたら驚くだろうな。

その反応を楽しみに、店内に目を向けると。

思ってもない光景に、俺の方が驚いた。


 キミはその鮮やかな笑顔を、ホスト時代の後輩の瞬に向けてて。

偶然の来客にしては、ずいぶん親しげな態度で接してて……


 極め付けは、瞬にリボンをかけた本を渡してた。


 とっさに俺はその場から立ち去って。

頭の中の混乱と、心の中のドス黒いものを封じ込めた。




「道哉!片付けはいいぞっ?

今日はもう上がって、早く彼女に美味しい料理を振舞ってやれっ」


「……いえ、大丈夫です」


「遠慮するな。

今日は休憩を犠牲にしてヘルプに行ってくれたんだから、その分だ」

そう店長の厚意に押し切られて。


 ありがたく受けたものの、俺は複雑な心境で帰路に着いた。




 だけど、とりあえず予定通りに事を進めて……

あらかじめ仕込んでた料理を仕上げると。

スパークリングワインと一緒に、まずは前菜からテーブルに並べた。


「うそ、スゴいっ!

勿体なくて食べらんないよっ……

そーだ!写メ撮ろっ」

キミは興奮ぎみに、ブルスケッタを写し始める。


 それは薄切りバケットにキャビアとクリームチーズ、そして生ハムで作った薔薇を乗せたもの。


「でもすごく簡単だよ?」


「そーなのっ?じゃあ今度教えてっ」


 そんな風に何気ない会話を交わしながらも……

心の中には瞬の事が渦巻いてた。



「……今日、忙しかっただろ?」


 次の料理のリングイネを食べ始めたキミに、職場の話題を振ってみた。


「うん、でも疲れが一気に飛んじゃったよっ。

だってもう、なにこのパスタっ。

すっごいモチプリなんだけど!

しかもこのウニクリーム、コクが絶品っ」

なんて、飛びっきりの笑顔をもらったのに。


 話を逸らされた気がして、素直に喜べなかった。



「今日みたいに忙しい日ってさ……

知り合いが来たら、どう対応してる?」


 次の料理を出しながら、もっと核心に迫った話題を振ってみたけど。


「そこは臨機応変にっ。

それよりこれ何!?ブイヤベースっ?

すっごい豪華!美味しそ〜っ」


 またしてもはぐらかされた気がした。


「……オマール海老と魚介のアクアパッツァだよ。

まぁ、ブイヤベースと似たようなもんかな」

愛想笑いで答えると。


 俺の微妙な反応に気付いてくれたのか、キミは話を戻してくれた。


「へぇ〜、アクアパッツァってゆんだっ?

ん〜っ、いい匂い!早く食べよっ?

ところで、今日誰かお店に来たの?」


「えっ、あぁ……巧が来てさ。

忙しくて全然対応出来なかったけど」

とっさに嘘を吐いて、ホスト繋がりから瞬話題になるのを狙った。


 回りくどいのは解ってる。

でも俺は、結歌の口から聞いたかったんだ。

なのに。


「しょーがないよ、しかも道哉は厨房なんだし。

それに巧くんなら分かってくれてるんじゃないかなっ?」


「うん、まぁ……

結歌は?

今日誰か知り合い来た?」


「今日っ?

ん〜、チラホラね。

でも忙しくて会釈ぐらいしか出来なかったけど。

それにしてもこの、アクアなんだっけ?

めちゃ美味しんだけどっ!」


 ここまで核心に迫っても。

キミは瞬の事を話してくれるどころか、やっぱりはぐらかしてるようにしか見えなかった。


 昼間の事を忘れる筈がない。

だとしたら、言えない様なやましい事でもあるのか?



「はい。牛ヒレ肉とフォアグラのロッシーニ風です」


「うわ、贅沢っ!

しかも早坂シェフ!

あ、この響きいい……

じゃなくてっ、なんてオシャレな盛り付けっ。

実はけっこーお腹が満たされてるんですがぁ、これは絶対食べなきゃな一品です!

もお〜っ、写メ写メっ」


 そうやって呑気にはしゃいでる姿は、逆に俺をイラつかせた。


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