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恋愛図書館  作者: よつば猫
2月
19/46

「……あなたの気持ちは、よくわかりました。

ですが結歌の手紙に住所の記載はありませんし、私達にはどうする事も出来ません。

それに、主人があなたを許すとは思えません」


「っ、だとしても……

お詫びを、したいですし。

もう1度お話させてもらえませんかっ?」


 どうする事も出来ない状況に落胆しつつも、出来る事から始めたかった。


 本音を言えば、詫びるどころか許せない気持ちの方が勝ってるけど。

結歌との未来の為なら何でもするし、どんな屈辱にも耐えてやる。


 あの時にもそれくらいの強い気持ちと覚悟があれば、違う今があった筈なのに……


「……わかりました。

そろそろ帰って来ると思うので、上がって待っていて下さい」



 客室に通されると……

今度こそヘマ出来ないと、徐々に緊張感が込み上げる。


「時間は大丈夫ですか?

今日は少し遅いようです」


「はい、大丈夫です。

その間、結歌さんの事で聞いてもいいですか?」


 結歌の母親は、ためらいがちに頷いた。


「手紙では、元気そうでしたか?」


「ええ、とても。

何事もなかったように」


「……でも彼女には、何か抱えてる問題があったように思えます」


「っ、どういう意味ですかっ?」

途端、表情と声質が険しくなる。


「いえっ、ただなんとなく……

結歌さんはご両親から、」


「言いがかりは止めて下さい!

私達は本当に仲の良い家族で、何の問題もありませんっ」

話を遮断した誤解の言葉に。


 戸惑って違和感を覚える。


「いえ、あの……はい。

その、愛情いっぱいに育てられたそうですが……

そんな彼女がこんな風に姿を消すなんて、何か理由があるように思えて」

様子を伺いながら、続きを答える。


「ですから姿を消した訳じゃなく、自立したいからと言いましたよねっ?」


「はい、でも……

僕はともかく、友人の前からは姿を消してる状況なので」


「っ、あの子は昔、体が弱くて……

学校も休みがちだったので、友達付き合いが苦手なんでしょう」


 その内容にも違和感を感じると。

そこで結歌の父親が帰って来た。



 張り詰めた気持ちで、この客室への誘導を待っていると……

激しい足音を響かせて、勢いよく現れた。


「貴様ァっ、よくもノコノコとっ……

貴様のようなクズ人間と話す事はない!

さっさと帰れっ!」


 すぐさま、土下座のようにして謝罪を示す。


「お怒りはごもっともです!

あの時は本当に申し訳ありませんでしたっ。

そして今回も突然の訪問、大変失礼しました。

深く、深く反省しています……

どうかっ、お詫びの限りを尽くさせて下さいっ」


「詫びなどいらん!視界に入るのも不愉快だっ。

さっさと消えろっ!」


「お目障りでしょうがっ、このまま帰れません!

身勝手なのは承知の上で、どうかご無礼をお許し下さいっ」


 ひたすらの拒絶に、ひたすら謝罪を繰り返した。

だけど……


「いい加減にしろっ!

帰らないなら警察を呼ぶぞ!?」


「っ、納得出来ませんっ!

そこまでお怒りの理由を教えて下さいっ」


「貴様が娘をたぶらかしたからだろう!

自覚もないほど腐りきってるのかァっ!?

貴様の所為で娘は変わった!

おかげで妻は塞ぎ込んでっ……

あんなに仲の良い家族だったのにっ、貴様が全部ぶち壊したんだっ!

いいかっ?一生許す事はないと思えっ。

2度とうちの敷居をまたぐなっ!」


 そう怒鳴りながら、俺の胸ぐらを掴んで退去を促す。


「っっ、待って下さいっ」

言葉の抵抗なんて意味もなく。


 前回同様、菓子折りを渡す隙すらないまま追い出されて……

閉められたドアを呆然と見つめた。



 俺が一体何したんだよ……

ただ結歌を愛して、結婚したいと思っただけなのに。


 確かに前回は逃げ出した形だし、どっちもアポなしな状況で失礼な点はあったと思う。

でも失礼なのはお互い様だし。

むしろ、俺の方が許せない点がある。


 とはいえ、勝手な同棲や前職のホストに不信感を持つのは当然だ。

でもだからって……


ーあんなに仲の良い家族だったのにっ、貴様が全部ぶち壊したんだっ!ー


 俺の所為か?

家族の問題は、その家族の所為だろ。

だから俺の家族が崩壊したのも、親父を冤罪に陥れた女子高生の所為だとは思ってない。


 もちろんその行為は許せないし、崩壊のきっかけにはなったと思うけど。

結局は、家族への愛が足りなかった母親と。

そんな絆しか築けなかったその家族の所為なんだ。

簡単に壊れるなら、その程度の絆だったんだよ。


 だけどその絆が本物なら、修復出来る。

死に奪われたとはいえ、俺と親父が揺るぎない絆を築き直したように……


 だからそうやって壊れた責任を他人の所為にする暇があったら、修復手段を考えて必死に立ち回れよ。


 俺だって、1度は壊れたこの絆を信じて……

今度こそ確かなものにしようと、結歌に向かってる。


 なのに、キミには辿り着けなくて。

キミの両親には、こんなに嫌われて。

それでも俺には、キミしかいなくて。

何やってんだろな、俺……




 そして帰路の最中、ふと思う。


 "仲の良い家族"

家族そろって強調する姿に、違和感を感じた。


 何の問題もありません、だなんて……

むしろ何かあるのを物語ってるように思えた。


 何より。

ーあの子は昔、体が弱くて……

学校も休みがちだったので、友達付き合いが苦手なんでしょうー

キミの母親の言葉と。


ー小学生の時、木登りしてたら落っこちちゃって!

ほらっ、おてんばだったからさぁー

そんなキミの言葉が……


 どこかズレてて、何かあると追い打ちする。


 それにいくら友達付き合いが苦手でも、幼馴染みのマリちゃんとはすごく仲良かったし、心も許してた筈なのに。

彼女の前からも姿を消すのは不自然だし、それが自立したいなんて理由なのも腑に落ちない。


 やっぱりキミは何かを抱えてたんだ……

そう確信めいた気持ちになって、いっそう後悔が押し寄せる。


 あの時キミは、どんな気待ちでいたんだろう?

そして今も、抱えてる何かに苦しんでるんだろうか?

胸が苦しくなる……



 どうしてあの時、キミと向き合えなかったんだろう。

どうして簡単に、キミを諦めてしまったんだろう。

どうしてもっと、キミの心を知ろうとしなかったんだろう。


 今さら後悔しても、どうにもならなくて……

それでも後悔は、尽きる事なく押し寄せる。


「会いたいよ、結歌……」

思わず呟いた言葉を、寒風がさらってく。


 だけど俺の覚悟はもう揺るがない。

必ずキミを見つけ出して、もう1度……

そう心に誓って。


 さらわれた言葉が、キミに届いてくれたら……

なんて願った。





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