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恋愛図書館  作者: よつば猫
2月
18/46

 会いたいよ結歌……

キミが居なくなって、2年5ヶ月。

今でも、どうしょうもないくらい好きなんだ。


 今さらほんと、バカだよな……

キミはもう俺の事なんかとっくに忘れて、他の誰かと新しい未来に進んでるかも知れないのに。


 俺の薄情な神様は……

新たな未来どころか、過去への未練にスポットライトを当てていて。


 だけどもしかしたら。

未来に必要な何かを過去にし忘れてて、それを知らせてるのかな?

だとしたらそれは……



 その夜懲りもせず、この日にもらった本を読み返した。


 それはタイトルがまんま愛の告白の、可愛いらしい絵本で。

袋から取り出した時、少し照れくさかったのを覚えてる。



《愛の日なので、メッセージ本を贈ります。


好きです、大好きです!

もう大好きじゃぜんぜん足りないくらい絶大好きですっ!


なんて、到底言い尽くせるワケなくて。

この本はそんな気持ちを代弁してくれてます。


もちろん、道哉への想いはこの代弁の比じゃありません!

だけど一部でも、伝わればいいなと思います。


ところで、知ってましたか?

道哉と目が合うだけで、胸がジャンプして。

少し見つめ合うだけで、ぐわーってなって。

軽く触れられただけで、溶けそうになってる事を。

もう、心臓がいくつあっても足りません!


これはかなりトップシークレットなので、心の中にしまっといて下さいねっ?

以上をふまえて、あえてストレートに伝えます。


道哉が大好きです》


 タイトルになぞらえた愛の言葉と、トップシークレットに……

こんな愛くるしい告白はない!と。

当時は、胸をくすぐられて鷲掴まれて。

今は、切なさと恋しさで押し潰される。


 そういえば、この記念写真を撮る場面に合わせて記念写メを撮ったっけ……

ページをめくって懐しむ。


 写真嫌いな俺だったけど……

キミのリクエストに応えたかったし、俺もキミとの写真が欲しかった。


 キミの代弁だとゆう想いの詰まった内容は、今じゃ狂おしいほど俺の気持ちを代弁してて……

改めて解ったよ。


 日々増してくキミへの想い……

俺はキミを忘れられない。

きっとこの先も、時間がそれを奪う事は出来ない。


 だったらあの時、それを奪ったのは誰なんだ?

親か?キミか?

それとも自分自身なのかな……


 守ってほしいという代弁に、絶対キミを守ると誓ったのに……

俺が守ったのは自分の心だった気がする。


 好きな相手と離れてる冒頭は、まるで今の俺達を予測してたかのようで。

だけど再会を望む内容も、キミの代弁なんだとしたら……

本当はキミも、俺との仲直りを待ってたのかな?


 巧が言うように、キミも何かを抱えてて。

だから何も言えなかったとしたら……

なんて、自分に都合いい想像を巡らせてバカみたいだけど。


 キミの心には、まだ俺がいる?

もしキミがこの絵本のように、まだ俺を待ってるとしたら……


 何かに背中を押されたくて。

当時使ってた携帯を取り出して、充電に繋いだ。


 そして、ずっと見ないようにしてた記念写メを映し出すと。

胸が強く鼓動して、苦しいほど締め付けられる。


 画面の中では……

眩しいキミの笑顔とぎこちない俺の笑顔が、今でも仲良く寄り添ってて。


 愛しさとか、切なさとか、色んな想いが込み上げて……

ただ、ただ。


「俺も結歌が、大好きです」


見返しのメッセージに、応えるように呟いた。





 日曜。

仕事を早上がりさせてもらった俺は……

記憶を辿って、たったひとつの手掛かりに向かってた。


 もしキミが、まだ俺を待ってたら……

こんなに遅くなってごめん。

時間がかかり過ぎたけど……

やっと過去にやり損ねた課題の、覚悟が出来たよ。


 結歌の親と、もう1度向き合う覚悟。

心をガードする壁を、取っ払う覚悟。

そして、結歌との絆を信じ抜く覚悟。


 今さらで情けないけど……

俺には難しい覚悟だったんだ。

だけどそれでも、俺の未来にはキミが絶対必要なんだって!

今日までの日々が教えてくれた。





「あなたはっ……!」

訪問した俺に驚き顔を向ける、結歌の母親。


「ご無沙汰してます、早坂です。

あの時は失礼しました」


「っ、頭を上げて下さいっ。

あの、ご用件は何ですか?

結歌とはもう、別れたんですよね?」


「はい、ですが……

今更なのは解ってますがっ……

まだ結歌さんの事が好きなんです!」

意を決した告白に。


 当然また驚かれて、すぐに困惑の反応が返された。


「……あなたには一つだけ、申し訳ないと思ってます。

挨拶に来る事を、あの子から相談されていたのに……

主人に伝えそびれてしまって」


 思ってもない事実に驚いた。

結歌はちゃんと伝えてくれてたんだ!

だったらあの時、結歌自身も驚いて……

テンパって何も言えなかったのかもしれない。

そう過ぎった矢先。


「ですがもう終わった事です。

主人はあなたを、絶対許さないでしょう」


 許さない?俺をっ?

むしろこっちのセリフだと思えるような発言に、驚きながらも喰らい付く。


「終わってませんっ、終われないんです!

お願いしますっ、もう1度チャンスを下さいっ!」


「っ、だから止めて下さい!

もうすぐ主人も帰って来ますしっ……

近所の目も考えて下さいっ」


「っ、すみません。

でもご迷惑は承知の上でお願いします!

このままじゃ帰れません、どうか結歌さんと会わせて下さいっ」


「もうっ……中に入って下さいっ」

周りを気にした様子で、玄関内へと促される。



「すみません、ありがとうございます」


「いいえ、了承した訳じゃありません。

第一、あの子と会いたいのは私達の方ですから」


 耳を疑った、完全な行方不明を思わせる言葉。


「まさかっ、ご両親の前からも居なくなったんですか!?」


「居なくなっただなんてっ、人聞きの悪い事を言わないで下さい!

会えなくても手紙は来てますっ。

父の日だって母の日だって、私達の誕生日だって。

ただ誰にも甘えず自立がしたいと、こっちから連絡が取れないだけですっ」


「だけ、って。

心配じゃないんですか!?

携帯が解約されて、もう2年以上経つんですよっ?

その間ずっと、手紙での安否しか解らないって事ですよね?

だいたい自立したいって理由で、」


「いい加減にして下さい!

これ以上私達を掻き回さないでっ」

そう遮られて、面食らう。


 けど確かに俺は身勝手で……

そう思われても仕方ない。


 中途半端な覚悟で結婚挨拶に臨んだ挙句、その場から逃げ出して。

今さら自分都合の感情を引き下げて、迷惑も顧みず押し掛けてる。


「本当に、至らないばかりで……

申し訳ありません。

身勝手なのは解ってますが、どうか……

どうかお願いします。

結歌さんとは、言葉を交わさないまま別れてしまいました。

だからせめて、ちゃんと話をしないと終われませんし。

許されるなら、やり直したいです」


 深々と、誠意を込めて頭を下げた。


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