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会いたいよ結歌……
キミが居なくなって、2年5ヶ月。
今でも、どうしょうもないくらい好きなんだ。
今さらほんと、バカだよな……
キミはもう俺の事なんかとっくに忘れて、他の誰かと新しい未来に進んでるかも知れないのに。
俺の薄情な神様は……
新たな未来どころか、過去への未練にスポットライトを当てていて。
だけどもしかしたら。
未来に必要な何かを過去にし忘れてて、それを知らせてるのかな?
だとしたらそれは……
その夜懲りもせず、この日にもらった本を読み返した。
それはタイトルがまんま愛の告白の、可愛いらしい絵本で。
袋から取り出した時、少し照れくさかったのを覚えてる。
《愛の日なので、メッセージ本を贈ります。
好きです、大好きです!
もう大好きじゃぜんぜん足りないくらい絶大好きですっ!
なんて、到底言い尽くせるワケなくて。
この本はそんな気持ちを代弁してくれてます。
もちろん、道哉への想いはこの代弁の比じゃありません!
だけど一部でも、伝わればいいなと思います。
ところで、知ってましたか?
道哉と目が合うだけで、胸がジャンプして。
少し見つめ合うだけで、ぐわーってなって。
軽く触れられただけで、溶けそうになってる事を。
もう、心臓がいくつあっても足りません!
これはかなりトップシークレットなので、心の中にしまっといて下さいねっ?
以上をふまえて、あえてストレートに伝えます。
道哉が大好きです》
タイトルになぞらえた愛の言葉と、トップシークレットに……
こんな愛くるしい告白はない!と。
当時は、胸をくすぐられて鷲掴まれて。
今は、切なさと恋しさで押し潰される。
そういえば、この記念写真を撮る場面に合わせて記念写メを撮ったっけ……
ページをめくって懐しむ。
写真嫌いな俺だったけど……
キミのリクエストに応えたかったし、俺もキミとの写真が欲しかった。
キミの代弁だとゆう想いの詰まった内容は、今じゃ狂おしいほど俺の気持ちを代弁してて……
改めて解ったよ。
日々増してくキミへの想い……
俺はキミを忘れられない。
きっとこの先も、時間がそれを奪う事は出来ない。
だったらあの時、それを奪ったのは誰なんだ?
親か?キミか?
それとも自分自身なのかな……
守ってほしいという代弁に、絶対キミを守ると誓ったのに……
俺が守ったのは自分の心だった気がする。
好きな相手と離れてる冒頭は、まるで今の俺達を予測してたかのようで。
だけど再会を望む内容も、キミの代弁なんだとしたら……
本当はキミも、俺との仲直りを待ってたのかな?
巧が言うように、キミも何かを抱えてて。
だから何も言えなかったとしたら……
なんて、自分に都合いい想像を巡らせてバカみたいだけど。
キミの心には、まだ俺がいる?
もしキミがこの絵本のように、まだ俺を待ってるとしたら……
何かに背中を押されたくて。
当時使ってた携帯を取り出して、充電に繋いだ。
そして、ずっと見ないようにしてた記念写メを映し出すと。
胸が強く鼓動して、苦しいほど締め付けられる。
画面の中では……
眩しいキミの笑顔とぎこちない俺の笑顔が、今でも仲良く寄り添ってて。
愛しさとか、切なさとか、色んな想いが込み上げて……
ただ、ただ。
「俺も結歌が、大好きです」
見返しのメッセージに、応えるように呟いた。
日曜。
仕事を早上がりさせてもらった俺は……
記憶を辿って、たったひとつの手掛かりに向かってた。
もしキミが、まだ俺を待ってたら……
こんなに遅くなってごめん。
時間がかかり過ぎたけど……
やっと過去にやり損ねた課題の、覚悟が出来たよ。
結歌の親と、もう1度向き合う覚悟。
心をガードする壁を、取っ払う覚悟。
そして、結歌との絆を信じ抜く覚悟。
今さらで情けないけど……
俺には難しい覚悟だったんだ。
だけどそれでも、俺の未来にはキミが絶対必要なんだって!
今日までの日々が教えてくれた。
◇
「あなたはっ……!」
訪問した俺に驚き顔を向ける、結歌の母親。
「ご無沙汰してます、早坂です。
あの時は失礼しました」
「っ、頭を上げて下さいっ。
あの、ご用件は何ですか?
結歌とはもう、別れたんですよね?」
「はい、ですが……
今更なのは解ってますがっ……
まだ結歌さんの事が好きなんです!」
意を決した告白に。
当然また驚かれて、すぐに困惑の反応が返された。
「……あなたには一つだけ、申し訳ないと思ってます。
挨拶に来る事を、あの子から相談されていたのに……
主人に伝えそびれてしまって」
思ってもない事実に驚いた。
結歌はちゃんと伝えてくれてたんだ!
だったらあの時、結歌自身も驚いて……
テンパって何も言えなかったのかもしれない。
そう過ぎった矢先。
「ですがもう終わった事です。
主人はあなたを、絶対許さないでしょう」
許さない?俺をっ?
むしろこっちのセリフだと思えるような発言に、驚きながらも喰らい付く。
「終わってませんっ、終われないんです!
お願いしますっ、もう1度チャンスを下さいっ!」
「っ、だから止めて下さい!
もうすぐ主人も帰って来ますしっ……
近所の目も考えて下さいっ」
「っ、すみません。
でもご迷惑は承知の上でお願いします!
このままじゃ帰れません、どうか結歌さんと会わせて下さいっ」
「もうっ……中に入って下さいっ」
周りを気にした様子で、玄関内へと促される。
「すみません、ありがとうございます」
「いいえ、了承した訳じゃありません。
第一、あの子と会いたいのは私達の方ですから」
耳を疑った、完全な行方不明を思わせる言葉。
「まさかっ、ご両親の前からも居なくなったんですか!?」
「居なくなっただなんてっ、人聞きの悪い事を言わないで下さい!
会えなくても手紙は来てますっ。
父の日だって母の日だって、私達の誕生日だって。
ただ誰にも甘えず自立がしたいと、こっちから連絡が取れないだけですっ」
「だけ、って。
心配じゃないんですか!?
携帯が解約されて、もう2年以上経つんですよっ?
その間ずっと、手紙での安否しか解らないって事ですよね?
だいたい自立したいって理由で、」
「いい加減にして下さい!
これ以上私達を掻き回さないでっ」
そう遮られて、面食らう。
けど確かに俺は身勝手で……
そう思われても仕方ない。
中途半端な覚悟で結婚挨拶に臨んだ挙句、その場から逃げ出して。
今さら自分都合の感情を引き下げて、迷惑も顧みず押し掛けてる。
「本当に、至らないばかりで……
申し訳ありません。
身勝手なのは解ってますが、どうか……
どうかお願いします。
結歌さんとは、言葉を交わさないまま別れてしまいました。
だからせめて、ちゃんと話をしないと終われませんし。
許されるなら、やり直したいです」
深々と、誠意を込めて頭を下げた。