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恋愛図書館  作者: よつば猫
2月
17/46

 再び1年が過ぎた、2月。


 街は、色んな好意で溢れてる。

それは俺の所にも……


「あのっ、好きなんです!

つ、付き合って下さいっ」


 よく挨拶を交わす隣の店の子が、俺にチョコレートを差し出してきた。


「……ごめん、受け取れない。

俺、誰とも付き合う気ないんだ。

でもありがとう」

気まずい思いで店内に戻ると。


「相変わらずモッテモテね〜。

なのにいつも断っちゃうのは、私への罪悪感からかな?」

営業に来てた文乃が、からかうように声掛けてきた。


「それもあるよ」


「も、って事は、あとは何?」


「それは秘密」


「うわ、もったいぶっちゃって」


 最初は気まずかった文乃とも、今はいい友人だ。


 そんな文乃を最後に、俺は誰とも付き合わなくなった。

3人の元カノへの罪悪感も、理由の一部ではあるけど……

主には、忘れるってゆう無駄な抵抗をやめたから。


 結局どう足掻いたって、俺の心は結歌だらけなんだ。


 受け入れたら苦しさは少しマシになったけど……

今度は切なさが増大した。


 感情に逆らわないって事は、いつか時間が解決してくれるまで想い続けるって事で……


 なぁ結歌、おかしいだろ?

キミは側に居ないのに、好きな想いは膨らむんだ。


 それに伴って、会いたくなって……

切なさに押し潰されそうになる。


 更に、2月の甘い思い出は……

去年同様、想いを煽る。




「ハッピーバレンタイ〜ン!

はいどーぞっ」

ケーキボックスを差し出してきた、遅い帰宅の結歌。


 今日は俺の店も忙しかったけど、スイーツカフェはもっと忙しかったはずで。

当然、手作りの余裕なんかないと思って……


「ありがとっ。

結歌の店のケーキ、食べてみたかったんだ」


「え、そーなのっ?

ざんねーん!箱はうちの店だけど、中身は千川さんが作りましたぁ〜」


「え、結歌の手作りっ?

だったらもっと嬉しいよっ」


「うっそだぁ〜!

絶対取り繕ったでしょっ!」

すごく嬉しそうに茶化すキミ。



 そして胸を膨らませながら、食後を迎えると。


「もしかして、これっ……」


「目が輝いてますね〜。

そお、お察しのとーりですっ」


 目の前には、俺の1番好きなティラミス。

しかも小さめとはいえ、贅沢にワンホールの姿で!


「うわ、うわー」

角度を変えて覗き込んでると。


 吹き出す結歌。

「大げさだよっ!そんなに好きなのっ?」


「だって、ティラミスをワンホールとか初めてだし……

好きだって事も覚えてくれたわけだし、 なにより結歌の手作りだろ?」


「そーだけどっ。

はいはい、じゃあさっそく食べて下さいっ?」


 口にしたそれは、親父が毎年買ってくれてたものとよく似た味で……

胸が詰まった。


 思わず顔を歪めると。


「え、美味しくないっ?

うそ、どーしよっ」

キミが慌てて横からつまむ。


「あぁごめんっ、そうじゃなくて……

なんか、幸せな味がして」


「それ、微妙な表現なんですけど〜」


「いやっ、ほんとに旨いよ。

ただ、誕生日に買ってもらってたのと同じ味でさ。

そのケーキ屋、今は無くなってて……

もう味わえないと思ってたから」


「そうなんだ……

だったらなんか、嬉しいな。

道哉の思い出と関われたみたいで……」

しみじみと微笑むキミの言葉が。


 口の中でほろっと溶けるティラミスみたいに、俺の心をほろっと溶かした。


「ん……

俺もすごく、嬉しいよ。

この味さ、俺と親父の大好物でさ……

年に1度を楽しみにしてたんだ」


 ワンカットのティラミスは……

一緒に食べた方がおいしいよ!って、いつも俺が半分に切り分けて。

親父と2人で、ささやかな幸せを味わってた。


「そっかぁ……

じゃあ今度は、道哉のお父さんにも作ってあげたいなぁ」


 そう優しげに目を細める結歌に…

胸がジワリと締め付けられる。


「ありがと……

親父も天国で喜んでるよ」


 途端、キミの表情が驚きに変わる。


「あぁ親父、ってか両親とも他界してるんだ。

だからさ。

今度墓参りの時、ティラミス作ってくれる?」

明るめに切り返したけど。


 キミは少し切なげに微笑んだ。


「もちろんだよ。

あと、よかったら私も手を合わせたいな……」


「ありがと。

じゃあ、墓掃除も手伝ってくれる?」


「うん、喜んでっ」

今度はキミも明るめに返してくれて。

心がふっと軽くなる。



 そうして、幸せ味のティラミスを食べ終えると。

恒例のメッセージ本と一緒に、バレンタインプレゼントまで渡された。


 それは、和紙布ボディタオルで……


「ありがとうっ。

でも何で2つ?ピンクのは結歌の分?」


「うん、そう……

これで、洗いあいこしよーねっ?」


 瞬間、一時停止。


「え……ええっ!?

え、いーのかっ?っ、解禁!?」

理性崩壊寸前の状態で、結歌の肩をガッシリ掴む。


「う、うん……

落ち着こうか!道哉クンっ」


「よしっ、今すぐ入ろう!

片付けは後で俺がやっとくから」

落ち着けるはずもなく、そう結歌を抱き上げて風呂場に向かうと。


「ちょっ……

待って待って!着替えとかさっ」

もっともな足止めを食らう。



 更には俺が脱がしたかったのに、今日はおあずけで……

半端ない胸の高鳴りを引き連れて、先に入って待つ事に。


 そして恥ずかしそうに現れた、眩しい姿。


 ヤバい、落ち着け、しっかりしろっ。

おかしくなりそうなほど、見たくて堪らなかった姿を前に。

今にも襲いそうになる。


 そんな自分を必死に抑えてたのに……


「もぉ、見すぎ……」

恥じらう仕草は反則だ。


 バッと湯船から出て、その身体を抱き寄せると。

右肩から背中に向かって、大きな傷痕が目に入る。


「あっ……肩ねっ?

小学生の時、木登りしてたら落っこちちゃって!

ほらっ、おてんばだったからさぁ」


「おてんばにも程があるだろ……

けど、痛かっただろ?」

そっとその傷をさすった。


「っ、どうだろっ?あんま覚えてないんだよねっ。

それより……気持ち悪くないの?」


「えっ?」

その質問で、解った気がした。


 一緒に風呂に入るのを拒んだり、抱き合う時に真っ暗を求めたり……

それは恥ずかしがり屋だからじゃなくて、この傷を気にしてたからじゃないかって。


 傷痕に優しくキスを落として、何度もそれを繰り返すと……


「結歌の全てが愛しいよ」

そう答えを返した。


「っっ、道哉大好きっ……

ね、愛してる……」


 ただでさえ、俺の興奮は計り知れないのに。

そんな事言われたら、もう……



「ダメっっ……もっ、狂いそっ……」


「うん俺もっ……

一緒に狂ってくれるっ?」


 俺達は、何度も何度も愛の言葉を口にして……

おかしくなるほど、身体で愛を確かめ合った。




 思い出す度、心が引き裂かれそうになる。

まるで俺達は、元々一つだったかのように……


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