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「まっ、そのうち自分にピッタリな片割れが現れるよ」
「……かもな。
けど俺さ……
まだ結歌の事が好きなんだ」
あれからずっと、景色は鮮やかなままだった。
ただ、キミの居ない時間がモノクロなだけで。
巧は表情を落として。
「……だろうな」
溜息のあと、そう呟いた。
「あの時は悪かったな。
俺まで別れを促すよーな事言って」
「お前は何も悪くないよ。
逆の立場だったら、俺も同じ事言ってただろうし」
中学の時、お互い変わり者だった俺達は……
自然と心を開き合って、何でも話せる親友になった。
だから当然、俺の生い立ちなんかも知ってる訳で……
巧自身も、悩める家庭環境に置かれてた。
俺とは逆の母子家庭で。
母親の仕事がらいつも1人の夜を過ごして、ずいぶんと寂しい思いをして来たはずだ。
週末はよく俺ん家に泊まって。
巧の持って来た食材で飯を作って、親父と3人で食卓を囲んだりした。
そんな巧は……
その秀逸なビジュアルから恐ろしくモテて来て、多くの面倒くさい女と関わったり。
飲み屋で働く母親の影響で、小さい頃からその世界や女の裏を見て来たから。
恋愛にはかなり冷めてた。
だから余計、女を憎む俺の気持ちやその傷を理解してて。
自分の事のように、俺と同じ気持ちで、結歌に対して頭に来たんだと思う。
悪いどころか、それほど本気で心配してくれてただけだ。
「……つってもな。
あれからお前、ヘーキぶってたけど辛そうだったから……
自分の発言をずっと後悔してたんだ」
「だからお前の所為じゃないって。
あの時は俺自身が、結歌を許せなかった」
「けどそれでも、まだ好きなんだろっ?
これからどーするつもりなんだ?」
「どうもしないよ。
とっくに番号も変わってて……
それが結歌の答えなんだ」
巧は小さく数回頷くと、気まずそうに切り出した。
「実はさ……
お前の気持ちを察して、結歌ちゃんと連絡取ろうとしたんだけど。
そん時に携帯が解約されてんのを知ってさ。
で、気になって聞いてみたんだ。
俺の元指名客、ほら結歌ちゃんの友達の。
そのコとか、瞬がマリちゃんの連絡先残してたからそっちにも。
他にも職場とか色々探ってみたらさ……
どーやら仕事も辞めて、みんなの前からも姿を消したらしいんだ」
巧の話に、驚きで目を見張った。
「え、何でっ……」
働いてたスイーツカフェは、結歌の夢に繋がる大事な仕事の筈だし。
みんなの前からも消えるなんて……
「……なんでだろーな。
必死に忘れようとしてたお前には、ずっと話せなくて悪かったけど……
今思えば、あのコもなんか抱えてたのかもな」
明るくて眩しくて天真爛漫なキミが、いったい何を抱えてたんだろう……
「で、どーする?
お前も気になるだろーし、諦めずに探すか?」
探すったって……
それじゃ何の手掛かりも掴めない。
「……今更だよ。
どんな理由があったって、これが結歌の選んだ道なんだ」
だからどんなに苦しくても時間がかかっても、俺はそれを受け入れる。
でもほんとは、たったひとつの手掛かりに気付いてた。
だけど……
また同じ事を繰り返すだけだと、再び向き合う覚悟なんて持てなかった。
何度も聞いた始まりの歌とキミの歌声が、ずっと心に響いてるけど……
大丈夫、きっと時間が忘れさせてくれる。
忘れようとすればするほど苦しかった。
きっと、感情に逆らうから苦しいんだ。
だから開き直る事にした。
とにかく、時間が解決してくれるのを待って……
あとは神だのみ。
ようやく順番が来て、社殿の前で手を合わせた。
どうか、新たな未来が始まりますように。