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「おーい、またトリップかァ?」
「え……あ、ごめん」
「まったく〜、そんなだから文乃ちゃんにフラれんだよ。
しかもまさかクリスマスにフラれるとはな……
あのコめちゃくちゃ可愛いかったのに、もったいない」
「巧の好みなだけだろ。
顔なら友美の方が綺麗だったよ」
今日までの1年、俺は3人の女と付き合った。
最初に付き合った友美は……
私を守って下さい!と言っときながら、いつも俺の心を守ろうとしてくれてた。
仕事もプライベートも一緒の彼女は、なるべく俺を1人ぼっちにしないように立ち回ってて。
残業を手伝ってくれたり、2人で他店への勉強会に励んだり。
元カノとの思い出の部屋に居るのは辛い筈なのに、いつも入り浸ってて……
何も聞かずに傍に居てくれた。
そして慰めてるのか……
俺の良いところを見つけて、本日の素敵ポイントを発表してた。
だけど、そんな彼女も限界が来て。
「もう一緒に居るのが辛い」
そう言って俺の傍から離れて行った。
ちょうど就活が忙しくなったようで、うちの店も辞めてしまって……
それきり会ってない。
次に付き合ったのは高校の同級生で……
彼女が幹事をつとめる結婚式二次会の、料理の打ち合わせで再会した。
その時連絡先を聞かれて、呼び出され。
「高校の時好きだった」とカミングアウトから始まり、「フリーだったら付き合って欲しい」と告げられた。
「俺と付き合っても楽しくないよ?」と答えると。
「そんなの求めてないよ。
ありのままの飾らない早坂くんが好きだったから、むしろ癒されるかも」
そう微笑ってくれた。
それに甘えるように……
高校時代の俺を知ってる彼女には色々話せたし、気も使わずにすんだ。
だけど。
「昔の刺々しさは抜けたけど、なんだか抜け殻みたいだね。
私にはもう支えられないよ……
だって、私じゃダメだと思うから」
そう言って俺の傍から離れて行った。
そして最後に付き合った文乃は、情報誌の編集者で。
うちの店に取材や営業で入り浸ってて、ある日突然告白された。
2度も告白のタイミングを見計らってる隙に、俺に彼女が出来てたらしく。
別れを知って慌てたらしい。
今回はどれくらい持つんだろうと、同じ結末続きに先が見えた気もしたけど……
パワフルな彼女に圧倒されてOKした。
忙しくても積極的に2人の時間を作って、グイグイ引っ張ってく彼女は……
明るくて頼もしくて、どこか結歌を思い出させた。
忘れたいのに逆効果な気もしたけど。
だからこそ、好きになれるんじゃないかと思った。
だけどやっぱり……
「そりゃあ、好きになったのも告白したのも私だよっ?
だからって、道哉の心に私はこれっぽっちもいないよねぇ!?
なのになんで恋人ごっこを続けるのっ?
……や、ごめん。
私がムリヤリ引っ張ってたんだよねっ……
ごめん、もう解放してあげる……」
そう涙を零して、俺の傍から離れて行った。
今まで下らない女としか関われなかったのが嘘みたいに、みんな良い子だったし。
優しくしてたつもりだし、好きになろうとしてたけど……
心の中は、いつも結歌で溢れてた。
今度こそ忘れなきゃって。
もういい加減忘れたいって。
もがいて、俺なりに忘れる努力をしてたのに……
どうしてなんだっ!
キミより可愛い子なんて腐る程いる。
キミみたいに良い子だって他にもいる。
積み重ねた思い出は、また1から作り直せばいい。
なのに。
キミとの思い出は……
他愛なくても、かけがえなくて。
いつまでも心に、鮮やかな残像を残し続ける。
*
*
*
「道哉起きてー!
ほらっ、遅刻しちゃうよっ?」
「んん、眠い……」
し、結歌に甘えたい。
「ふとんから出たくないんでしょ〜。
もーお!はいじゃうよ〜?」
「ムリ……
寒くて頑張れない」
「でも頑張った人には、ふいにサプライズが訪れますっ。
それは明日かも知れないし〜?
今日かもしれません!
どんなサプライズがいいですかっ?」
「えっ?ええと……」
「はいっ!それを想像しながら今日の活力にして下さいっ。
起きて起きて〜」
出た……
結歌の質問自己完結。
だけどそれも楽しくて、笑いが零れる。
「わかったよ……
よし、今日頑張ったら結歌が一緒にお風呂に入ってくれるかなっ」
そう身体を起こすと。
「えっ……
可能性は〜、いつかはあると思いますっ。
なので今日は、おはよう……
と頑張って……のキスですっ」
言いながらそれぞれを片頬ずつに落としてく。
「それ、すごい頑張れる。
毎日頼むよ」
「ん〜、ドキドキがマンネリ化しませんかっ?」
「はい。
むしろ増えてく事を誓います」
なんて、右手を顔の位置まで挙手すると。
2人の笑い声が溢れた。
*
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