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恋愛図書館  作者: よつば猫
12月
13/46

 そうか。

景色が歪んでないのも、モノクロに戻ってないのも……

まだどうしょうもないくらい愛してるからだ!


 もう居ても立ってもいられなくなって。

携帯を手に取り、消せなかったキミの番号を画面に映した。


 だけど繋がった途端。


「おかけになった電話番号は現在使われておりません」


 一瞬、世界が凍りついて。

それでも何度か確かめて……

心に無数のナイフが突き刺さる。


 茫然と崩れ落ちて……

開かれたままの見返しが、視界に映った。


"道哉の幸せが守られますように"

そんなくくりのメッセージが、虚しく心を打ちのめす。


 ふざけんなよ……

終われば全てがただの綺麗事だ。

職場を訪ねるまでもない。

これがキミの答えなんだな……


 くそぉ……

くっ、そぉっっ。

潜んでた僅かな期待を奪われて……

俺達は完全に終わった。



 なのに景色は鮮やかで……

この目を、心を、抉り出したいと思った!


 いっそモノクロに戻れたら……

頼むからっ、俺の記憶から消えてくれっ!




 怒ってるのか、傷付いてるのか、それとも後悔してるのか……

自分でもよく解らなかったけど、ただただ苦しかった。


 そんな俺にとって12月の忙しさは、せめてもの救いで。

胸が張り裂けそうなクリスマスも、忙しさで過ぎて行く。


「はぁ〜、あと1日頑張るゾ!

今年のクリスマスは仕事尽くしで終わっちゃうナ。

てゆうか早坂さん、無理しすぎじゃないですか?

倒れちゃいそうで心配です」


「…………」


「……早坂さん?

おーい、聞いてますかーぁ!」

片付け中、いきなり俺の顔を覗き込んで来た染谷さんに。


 内心驚く。

「っ、何?……どした?」


 ふいに。

猫歌なキミだったら、思いっきり肩を跳ね上げただろうな……

そうよぎって、胸が潰れた。


「どした?じゃなっ……

え、早坂さん?

ちょっと、大丈夫ですかっ!?」


「っ、ごめん。

賄い食い過ぎたから、気持ち悪くて……

それより、何か用だった?」


「……ほとんど食べてなかったクセに」

ボソッと呟かれた彼女の言葉は聞き取れず。


 ん?っと首を傾げてリピートを促すと。


「早坂さんが無理しすぎって話ですぅ!

ただでさえハードワークなのに、みんなの片付けまで引き受けて……」


「まぁ帰ってもヒマだし、この仕事が好きだから余裕だよ。

そーゆう染谷さんこそ、まだ残ってたんだ?」


「私は……

私は早坂さんが心配だから残ってるんですっ!」


 弱ってる俺に、真剣な瞳でぶつけられた心配は……

素直に嬉しかった。


「……ありがと。

けど、大丈夫だから。

染谷さんも早く上がりなよ」


「上がりませんっ……

私が早坂さんを守ります!

じゃなくてっ、守らせて下さいっ!」

思ってもない申し出に。


 軽く面食らって、吹き出した。


「俺、年下の女子大生に守られるんだ?

って、何から守る気?」


「茶化さないで下さい!真剣ですっ……

私が、辛い気持ちから守りますっ」

そう言った彼女の手は、言葉とは裏腹に震えてて。


 少しだけ、ほっとけない気持ちになった。


「まいったな……

俺、そんな辛そうに見えてた?」


「いえ多分、気付いてるのは店長と私だけです。

店長は早坂さんの事、すごい気に掛けてるし。

私は……

私は早坂さんの事が好きだからっ」


 その気持ちには、気付いてたけど……

正直そんな事どうでも良かった。

第一女への憎しみだって、今はどうでもいいだけで無くなった訳じゃない。


 それに守りたいなんてセリフも、気に入られる為か偽善としか思えない。

守られたいだけの裏切る生き物だから。


 でも。

結歌を愛して、その愛を失う辛さを知った俺は……

今までバカにしてきた感情が、理解出来るようになっていて。

震えながらも必死に気持ちをぶつける彼女が、いじらしく見えた。


「ありがとう、なのかな……

けど、女の子に守ってもらうつもりはないよ」


「っ、だったら付き合って下さい!

そして私を守って下さい!

辛いのも忘れちゃうくらい、いっぱい守らせますっ」


 守らせますって……

それは今までにないパターンで、またしても吹き出した。


 そして、なんだか変に絆されてしまった。


「……いいよ。

えーと、友美ちゃんだっけ?

じゃあ、これからよろしく」

そう微笑むと。


 彼女は驚き顔を歪ませたあと、はいっ!と満面の笑みで笑った。



 大丈夫……

結歌を、女を好きになれたんだ。

きっとまた恋が出来る。

そしたらキミを忘れられる。


 俺は苦しくて、おかしくなりそうで……

とにかく結歌を忘れたかった。





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