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そうか。
景色が歪んでないのも、モノクロに戻ってないのも……
まだどうしょうもないくらい愛してるからだ!
もう居ても立ってもいられなくなって。
携帯を手に取り、消せなかったキミの番号を画面に映した。
だけど繋がった途端。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
一瞬、世界が凍りついて。
それでも何度か確かめて……
心に無数のナイフが突き刺さる。
茫然と崩れ落ちて……
開かれたままの見返しが、視界に映った。
"道哉の幸せが守られますように"
そんなくくりのメッセージが、虚しく心を打ちのめす。
ふざけんなよ……
終われば全てがただの綺麗事だ。
職場を訪ねるまでもない。
これがキミの答えなんだな……
くそぉ……
くっ、そぉっっ。
潜んでた僅かな期待を奪われて……
俺達は完全に終わった。
なのに景色は鮮やかで……
この目を、心を、抉り出したいと思った!
いっそモノクロに戻れたら……
頼むからっ、俺の記憶から消えてくれっ!
怒ってるのか、傷付いてるのか、それとも後悔してるのか……
自分でもよく解らなかったけど、ただただ苦しかった。
そんな俺にとって12月の忙しさは、せめてもの救いで。
胸が張り裂けそうなクリスマスも、忙しさで過ぎて行く。
「はぁ〜、あと1日頑張るゾ!
今年のクリスマスは仕事尽くしで終わっちゃうナ。
てゆうか早坂さん、無理しすぎじゃないですか?
倒れちゃいそうで心配です」
「…………」
「……早坂さん?
おーい、聞いてますかーぁ!」
片付け中、いきなり俺の顔を覗き込んで来た染谷さんに。
内心驚く。
「っ、何?……どした?」
ふいに。
猫歌なキミだったら、思いっきり肩を跳ね上げただろうな……
そうよぎって、胸が潰れた。
「どした?じゃなっ……
え、早坂さん?
ちょっと、大丈夫ですかっ!?」
「っ、ごめん。
賄い食い過ぎたから、気持ち悪くて……
それより、何か用だった?」
「……ほとんど食べてなかったクセに」
ボソッと呟かれた彼女の言葉は聞き取れず。
ん?っと首を傾げてリピートを促すと。
「早坂さんが無理しすぎって話ですぅ!
ただでさえハードワークなのに、みんなの片付けまで引き受けて……」
「まぁ帰ってもヒマだし、この仕事が好きだから余裕だよ。
そーゆう染谷さんこそ、まだ残ってたんだ?」
「私は……
私は早坂さんが心配だから残ってるんですっ!」
弱ってる俺に、真剣な瞳でぶつけられた心配は……
素直に嬉しかった。
「……ありがと。
けど、大丈夫だから。
染谷さんも早く上がりなよ」
「上がりませんっ……
私が早坂さんを守ります!
じゃなくてっ、守らせて下さいっ!」
思ってもない申し出に。
軽く面食らって、吹き出した。
「俺、年下の女子大生に守られるんだ?
って、何から守る気?」
「茶化さないで下さい!真剣ですっ……
私が、辛い気持ちから守りますっ」
そう言った彼女の手は、言葉とは裏腹に震えてて。
少しだけ、ほっとけない気持ちになった。
「まいったな……
俺、そんな辛そうに見えてた?」
「いえ多分、気付いてるのは店長と私だけです。
店長は早坂さんの事、すごい気に掛けてるし。
私は……
私は早坂さんの事が好きだからっ」
その気持ちには、気付いてたけど……
正直そんな事どうでも良かった。
第一女への憎しみだって、今はどうでもいいだけで無くなった訳じゃない。
それに守りたいなんてセリフも、気に入られる為か偽善としか思えない。
守られたいだけの裏切る生き物だから。
でも。
結歌を愛して、その愛を失う辛さを知った俺は……
今までバカにしてきた感情が、理解出来るようになっていて。
震えながらも必死に気持ちをぶつける彼女が、いじらしく見えた。
「ありがとう、なのかな……
けど、女の子に守ってもらうつもりはないよ」
「っ、だったら付き合って下さい!
そして私を守って下さい!
辛いのも忘れちゃうくらい、いっぱい守らせますっ」
守らせますって……
それは今までにないパターンで、またしても吹き出した。
そして、なんだか変に絆されてしまった。
「……いいよ。
えーと、友美ちゃんだっけ?
じゃあ、これからよろしく」
そう微笑むと。
彼女は驚き顔を歪ませたあと、はいっ!と満面の笑みで笑った。
大丈夫……
結歌を、女を好きになれたんだ。
きっとまた恋が出来る。
そしたらキミを忘れられる。
俺は苦しくて、おかしくなりそうで……
とにかく結歌を忘れたかった。