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恋愛図書館  作者: よつば猫
12月
11/46

 どんなに忘れようとしても……

気付くと、結歌の事を思い出してた。


 その思い出は鮮やか過ぎて……

キミを失っても景色は歪まず、モノクロにも戻らなかった。


 だけどキミの居ない時間は、モノクロみたいに味気ない。

12月の街は、こんなにも騒がしくて煌めいてるのに……




 クリスマスなんかどうでもよかった。

ずっと生活するのに必死で……

子供の頃、周りの奴らがサンタとかプレゼントの話題で盛り上がってても、自分には関係ないと思ってた。


 そんな小3のクリスマス。

その年から手伝いじゃなくて本格的に家事を始めてた俺は、手荒れが酷くて。

いつもありがとなぁ!って、親父があったかそうな手袋をプレゼントしてくれた。


 親父の方がボロボロの手なのに、そんな手で無理して買ってくれたんだと思った俺は……

嬉しくて泣いてしまった。

それが親父まで嬉しくさせたようで、プレゼントは毎年続いた。


 イルミネーションで彩られたこの時期になると、そんな記憶が切なく巡る。


「俺はカッコつけてるワケじゃない。

イケメンすぎて憂いもサマになってしまうんだっ」

感傷に浸ってた俺に、アテレコして来た結歌。


 ふっと和んで、場を取り持つ。


「茶化すなよ。

こっちは結歌の事が好き過ぎて、思い悩んでたのに」


「うっそだぁ〜!絶対ウソっ!

でも、チャカしてごめんね?

ただぁ……

ヤな事とかあったんなら、聞いちゃうよ?

一緒に共有しましょうっ」

心配そうな笑顔で伺ってくるキミに。

愛しさが込み上げる。


「じゃあ、聞いてくれる?

好きな子にクリスマスプレゼントを贈りたいんだけど、何がいいと思う?」


 途端キミはニヤニヤする。


「ん〜、どれくらい好きかにもよると思いますっ。

はいっ!どれくらい好きですかっ?」


「っ、そこ重要っ?」

エアマイクを向けるキミに、思わず吹き出す。


「重要です!

かーなーりっ、重要ですっ」


「んん、どれくらいかな……

世界が変わるくらい?」


「解りにくい上に疑問系ですかっ?」


「だって、言葉じゃ上手く表せないよ。

それくらい凄く、愛してるから……」

甘い眼差しを向けると。


 キミはきゅっとした表情を覗かせて、幸せそうな笑顔を零した。


「じゃあプレゼントは、その気持ちいっぱいに抱きしめて下さいっ!

それで十分だと思いますっ」


「今抱きしめたくなって来た」


「っ、でわどーぞ。

イベントの日だけが特別じゃありませんっ。

日々の全てが特別なのです!」


 そして2人で笑い合って……

愛しむように抱きしめ合った。


「ねぇ道哉……

大切な人が側に居てくれるだけで、最高のプレゼントだよ?」


「ん、俺もそう思う」


 だから、クリスマスなんかどうでもよかった。

親父が居てくれるだけで良かったんだ。


 だけど、プレゼントはやっぱり嬉しかったから……

キミにも何か贈りたい。


 それにクリスマスはお互い仕事が最高に忙しいから、甘い時間なんて過ごせない。

だからせめてプレゼントくらいはしたかった。




 そしてイヴ前日。

既にハードワークで、2人してぐったりの遅い帰宅。

夕食は弁当で済ませると。


「風呂、先に入れよ。

あと、出たら先に寝といていいから」


「んーん、道哉が先に入りなよ。

どーせすぐ終わるでしょ?

私は一息つきたいし」


 お互いの疲労をねぎらって譲り合う。

だけどそんな風に言われたら厚意に甘えるしかなくて……

風呂場に向かいながら、ふと思い付く。


「結歌っ、今日くらい一緒に入るっ?」

引き返して、不意に弾んだ声を掛けると。


 ビクッと身体を弾ませて、かなりの驚き顔が向けられた。

思わず吹き出すと。


「っ、もお〜!びっくりするじゃん!

一緒には入りません〜っ」

ぷくっと頬っぺたを膨らまして拗ねるキミ。


「ごめんっ、猫歌が可愛くてっ……」

笑いを堪えながら弁解する。


 猫歌ってゆうのは俺が付けた愛称で。

急なアクションや大きな音とかに、やたら驚く結歌を猫に例えたもの。

猫顔だし、驚いた様子もびっくりした猫が飛び上がる感じだから。


 それを笑うとキミは拗ねるけど……

俺はビビりな一面も可愛くて仕方ない。


「でも明日も早いし、一緒に入れば待たなくていいし……

せっかくクリスマスだしっ」


「今日はまだイヴイヴでーす。

第一、一緒には入らないのでさっさと入って来て下さーい」

一緒に入りたい俺の名案は、速攻で退けられる。


 そんな恥ずかしがり屋な一面も可愛いけど、いつかは一緒に入りたい。

いや、なるべく近い内がいいかな。


 だったら今日は……



「え、まだ起きてたのっ?」


「まだって、30分も経ってないし。

それより、マッサージサンタになるから横になれよ」


 猫歌になるのは、ぼーっと気を緩めた時が多いから。

それほど疲れてるんだろうなと、風呂上がりのマッサージを企てた。


「なにそれっ、トウヤクロース?」


「ははっ!そう、道哉クロース。

ほら、早く横になれって」


「っ……

すっごく嬉しいけど、今日はいーよ。

道哉だって疲れてるし、私もそのまま寝ちゃいそーだし」


「むしろそのまま眠れよ、ほら早く」

半ば強引に引き寄せて、うつ伏せを促すと。


「もぉっ、ほんとにいーって!

それより、トウヤクロースがいいっ」


 一瞬、意味が解らず固まって。

すぐにその意味に固まった。


「コワイコワイっ。

道哉、目がイっちゃってるって!」


「当たり前だろ?

結歌から誘われて、平常心でいられる訳ない」

言い終えると同時、唇を奪った。


 そのまま、身体に手を這わせると。


「あっ、ねぇ電気っ」


「今日はいいだろ?

もうイヴだし……結歌が見たい」


「んんっ、ダメだって……お願い!」


 恥ずかしがり屋の結歌は、一緒に風呂に入らないだけじゃなく。

抱き合う時も暗くしなきゃ駄目だ。

ビビりなくせに真っ暗をご所望で……

それはそれで興奮するけど大変だ。


 付き合って約半年。

いいかげん結歌の全てが見たくておかしくなりそうだけど……

その分普段のキスでも、その表情が見れてかなり萌える。


 だから、もうしばらくは我慢するけど……

結歌から誘われた興奮状態は収まらない。

キミと出会うまでは、金の為か色営の一環でしかない作業だったのに。

今では、狂いそうなほどキミが欲しくてたまらない。


 次第にキミも、そんなふうに求めてくれて……

俺達はいつも、必死に愛を確かめ合ってた。

まるで、存在価値を確かめるように。



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