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どんなに忘れようとしても……
気付くと、結歌の事を思い出してた。
その思い出は鮮やか過ぎて……
キミを失っても景色は歪まず、モノクロにも戻らなかった。
だけどキミの居ない時間は、モノクロみたいに味気ない。
12月の街は、こんなにも騒がしくて煌めいてるのに……
*
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クリスマスなんかどうでもよかった。
ずっと生活するのに必死で……
子供の頃、周りの奴らがサンタとかプレゼントの話題で盛り上がってても、自分には関係ないと思ってた。
そんな小3のクリスマス。
その年から手伝いじゃなくて本格的に家事を始めてた俺は、手荒れが酷くて。
いつもありがとなぁ!って、親父があったかそうな手袋をプレゼントしてくれた。
親父の方がボロボロの手なのに、そんな手で無理して買ってくれたんだと思った俺は……
嬉しくて泣いてしまった。
それが親父まで嬉しくさせたようで、プレゼントは毎年続いた。
イルミネーションで彩られたこの時期になると、そんな記憶が切なく巡る。
「俺はカッコつけてるワケじゃない。
イケメンすぎて憂いもサマになってしまうんだっ」
感傷に浸ってた俺に、アテレコして来た結歌。
ふっと和んで、場を取り持つ。
「茶化すなよ。
こっちは結歌の事が好き過ぎて、思い悩んでたのに」
「うっそだぁ〜!絶対ウソっ!
でも、チャカしてごめんね?
ただぁ……
ヤな事とかあったんなら、聞いちゃうよ?
一緒に共有しましょうっ」
心配そうな笑顔で伺ってくるキミに。
愛しさが込み上げる。
「じゃあ、聞いてくれる?
好きな子にクリスマスプレゼントを贈りたいんだけど、何がいいと思う?」
途端キミはニヤニヤする。
「ん〜、どれくらい好きかにもよると思いますっ。
はいっ!どれくらい好きですかっ?」
「っ、そこ重要っ?」
エアマイクを向けるキミに、思わず吹き出す。
「重要です!
かーなーりっ、重要ですっ」
「んん、どれくらいかな……
世界が変わるくらい?」
「解りにくい上に疑問系ですかっ?」
「だって、言葉じゃ上手く表せないよ。
それくらい凄く、愛してるから……」
甘い眼差しを向けると。
キミはきゅっとした表情を覗かせて、幸せそうな笑顔を零した。
「じゃあプレゼントは、その気持ちいっぱいに抱きしめて下さいっ!
それで十分だと思いますっ」
「今抱きしめたくなって来た」
「っ、でわどーぞ。
イベントの日だけが特別じゃありませんっ。
日々の全てが特別なのです!」
そして2人で笑い合って……
愛しむように抱きしめ合った。
「ねぇ道哉……
大切な人が側に居てくれるだけで、最高のプレゼントだよ?」
「ん、俺もそう思う」
だから、クリスマスなんかどうでもよかった。
親父が居てくれるだけで良かったんだ。
だけど、プレゼントはやっぱり嬉しかったから……
キミにも何か贈りたい。
それにクリスマスはお互い仕事が最高に忙しいから、甘い時間なんて過ごせない。
だからせめてプレゼントくらいはしたかった。
そしてイヴ前日。
既にハードワークで、2人してぐったりの遅い帰宅。
夕食は弁当で済ませると。
「風呂、先に入れよ。
あと、出たら先に寝といていいから」
「んーん、道哉が先に入りなよ。
どーせすぐ終わるでしょ?
私は一息つきたいし」
お互いの疲労をねぎらって譲り合う。
だけどそんな風に言われたら厚意に甘えるしかなくて……
風呂場に向かいながら、ふと思い付く。
「結歌っ、今日くらい一緒に入るっ?」
引き返して、不意に弾んだ声を掛けると。
ビクッと身体を弾ませて、かなりの驚き顔が向けられた。
思わず吹き出すと。
「っ、もお〜!びっくりするじゃん!
一緒には入りません〜っ」
ぷくっと頬っぺたを膨らまして拗ねるキミ。
「ごめんっ、猫歌が可愛くてっ……」
笑いを堪えながら弁解する。
猫歌ってゆうのは俺が付けた愛称で。
急なアクションや大きな音とかに、やたら驚く結歌を猫に例えたもの。
猫顔だし、驚いた様子もびっくりした猫が飛び上がる感じだから。
それを笑うとキミは拗ねるけど……
俺はビビりな一面も可愛くて仕方ない。
「でも明日も早いし、一緒に入れば待たなくていいし……
せっかくクリスマスだしっ」
「今日はまだイヴイヴでーす。
第一、一緒には入らないのでさっさと入って来て下さーい」
一緒に入りたい俺の名案は、速攻で退けられる。
そんな恥ずかしがり屋な一面も可愛いけど、いつかは一緒に入りたい。
いや、なるべく近い内がいいかな。
だったら今日は……
「え、まだ起きてたのっ?」
「まだって、30分も経ってないし。
それより、マッサージサンタになるから横になれよ」
猫歌になるのは、ぼーっと気を緩めた時が多いから。
それほど疲れてるんだろうなと、風呂上がりのマッサージを企てた。
「なにそれっ、トウヤクロース?」
「ははっ!そう、道哉クロース。
ほら、早く横になれって」
「っ……
すっごく嬉しいけど、今日はいーよ。
道哉だって疲れてるし、私もそのまま寝ちゃいそーだし」
「むしろそのまま眠れよ、ほら早く」
半ば強引に引き寄せて、うつ伏せを促すと。
「もぉっ、ほんとにいーって!
それより、トウヤクロースがいいっ」
一瞬、意味が解らず固まって。
すぐにその意味に固まった。
「コワイコワイっ。
道哉、目がイっちゃってるって!」
「当たり前だろ?
結歌から誘われて、平常心でいられる訳ない」
言い終えると同時、唇を奪った。
そのまま、身体に手を這わせると。
「あっ、ねぇ電気っ」
「今日はいいだろ?
もうイヴだし……結歌が見たい」
「んんっ、ダメだって……お願い!」
恥ずかしがり屋の結歌は、一緒に風呂に入らないだけじゃなく。
抱き合う時も暗くしなきゃ駄目だ。
ビビりなくせに真っ暗をご所望で……
それはそれで興奮するけど大変だ。
付き合って約半年。
いいかげん結歌の全てが見たくておかしくなりそうだけど……
その分普段のキスでも、その表情が見れてかなり萌える。
だから、もうしばらくは我慢するけど……
結歌から誘われた興奮状態は収まらない。
キミと出会うまでは、金の為か色営の一環でしかない作業だったのに。
今では、狂いそうなほどキミが欲しくてたまらない。
次第にキミも、そんなふうに求めてくれて……
俺達はいつも、必死に愛を確かめ合ってた。
まるで、存在価値を確かめるように。