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恋愛図書館  作者: よつば猫
11月
10/46


 キミの寝顔を映して、不意に愛しさに襲われる。

その頬にそっとキスを落として、ゆっくり離れると……


「……もっと」

寝言のように呟くキミ。


 ふと、今月もらった本が思い浮かぶ。

それはもうタイトルから面白い、実際の変な寝言を集めた本。

2人して、涙が出るほど笑って楽しんだ。


「面白くないな」

寝たふりの澄ました顔に投げかけると。


 その唇をニマニマ緩ませながら、考えてる様子。


「……エロいの、おかわり」


 思わず吹き出した!

面白いとゆうより、あまりにも可愛いくて……

リクエスト通り。

甘くて濃厚なキスを、溢れるほど注いだ。




 思い出をなぞって、その時の本をパラとめくった。



《同棲の記念に、メッセージ本を贈ります。


「頼みがあるんだけど、俺と一緒に暮らして欲しい」

この言葉は私の胸キュンランキングで、圧倒的1位になりました!

あっ、照れましたか?

私も書きながらデレデレですっ。


一緒に新しい家具を買ったり、配置争いのジャンケンをしたり……

同棲準備はものすっごく楽しかったけど。

これからはきっと、もっと楽しいと思います。

いいえ、この本以上に絶対楽しいです!


ねぇ道哉、同棲ありがとう》



 胸が、引き千切れそうになった。


 その時の愛しさが甦って……

例えようもない虚しさと、どうしょうもない寂しさに潰されそうで……


 パタンと本を閉じて、家を出た。



 何処に行く訳じゃなく。

息苦しさから、外の空気を思いっきり吸い込んだけど……

何度深呼吸しても、息が詰まる。


 秋愁に誘われて、思い返したりするからだ……


 いや違う。

荒ぶる感情が落ち着いて。

思い込みが通じなくなって。

その結果、結歌と過ごした部屋や色んな場所が寂しさを訴えて。

既にその渦に引きずり込まれてたんだ。


 キミなんか忘れてしまいたいのに……

この環境じゃどうしょうもない。

こんな思いをするくらいなら、出会わなければ良かった!


 俺達の過ごした時間に、いったい何の意味があったんだ!?

キミは俺の心を奪うだけ奪って、無残に切り捨ててっ……


 ああそうか、俺が今までやって来た事だ。

キミは俺に、罪科を下しに現れたのか……

なら仕方ない。

バチが当たったんだ……



「早坂さん?

わっ!すごい偶然っ」

フラフラ歩く俺に、突然声掛けて来たバイトの染谷さん。


 途端、面倒くさい気持ちになる。


「あぁ……今日仕事は?」


「休みですよ?

だからココにいるんじゃないですかぁ!」


「まぁ、そっか」


 ふと、周りの視線を集めてる事に気付いて。

すぐにその理由が判明する。


「なんか意外に天然なんですねっ」

そう笑う染谷さんは、かなりの美人で。

道行く人の視線を片っ端からさらってく。


「そうかな、まぁ何でもいいけど……

じゃあお疲れ」


「ああっ!待って早坂さんっ。

この前オープンしたそこのイタリアン、もう行きましたっ?」


 指差された場所には、有名シェフの話題店。


「……まだだけど」


「良かった!

じゃなくて、良かったら一緒に行きませんっ?

なんか、味も接客も評判よくて、勉強したいなって思ってたんですけど。

なかなか1人じゃ入りずらくて」


 確かに1人じゃ入りにくい雰囲気だ。

だから俺も気になってたけど行けてない。

けど……


「友達と行ったら?」


「地元、こっちじゃないし。

大学の友達誘うには、ちょっと高めでしょ?」


「え、大学生?」


「え、今さらですかっ!?

ひどーい!どんだけ興味ないんですかぁ!

S大の3年ですよっ?」


 いや興味無いのはもちろん、聞いてねぇよ。


「なので、お願いしますっ」


 そう熱願されても、面倒くさい。

だけど面倒くさくて……

気付けば寂しさが紛れてた。


「……いいけど、奢らないよ?」


「当然です!

てゆうか、ありがとうございますっ」


 まぁ俺も勉強したかったし、一石二鳥か。



 高級ホテルに就職したいという彼女は、発言通り勉強熱心で……

イタリアンで働く同士、意外と話も盛り上がった。


 結歌以外の女と食事なんて、久しぶりだな……



 それから染谷さんとは、店でもよく話すようになった。

休みを合わせてるのか、毎週被る休日は他店への勉強に誘われ続け……

一石二鳥の俺は、毎回それに付き合った。


 女なんか憎んで見下して来たし、結歌との別れはそれを追い打ちしたのに……

今はどうでもよくなってた。


 ただ心に大きな穴が空いて、そこを寂しさが通り抜けてて……

親父が死んだ時もそうだったけど、その時は女への憎しみや罪科で紛らわせてた。


 だけど今回は……

結歌を憎めない。


 憎んでた筈なのに。

許せないと思ってたのに。

挙句、これで良かったと思ってたのに……

忘れられない。


 自分の事みたいに怒ってくれた巧には、今さら打ち明けられなくて……

気を紛らわしてくれるのは、料理への興味だけだった。

だからその延長線上にいる染谷さんの誘いも、今は有難い。


 だけど、どんなに紛らわしても……

寂しさは日に日に強くなっていった。





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