表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛図書館  作者: よつば猫
始まり
1/46

 目に映る景色はいつも、モノクロで歪んで見えた。






罪歌(サイカ)

今から俺の客が枝連れてくんだけど、お前も付けよ」

そう声掛けて来たのは友人の(たくみ)


 常にナンバー3入りしてる巧は、こんな風に枝……つまり指名ナシのフリー客を回してくれる。

店では煌って源氏名の巧に誘われて、俺はホストクラブで働いてた。


 罪歌ってのは俺の源氏名。

バカ女達に罪科を下す。

そんなつもりで、漢字と読みを少し変えて付けた名前。


 巧に誘われなくても、この仕事は俺にピッタリだと思ってた。

女ってゆう、バカな生き物に復讐出来る。



「煌〜!

今日はこの子の誕生日祝いだから、カフェパ入れてぇ〜。あ、ピーチでっ」

得意気にオーダーする巧の指名客。


 連れて来た枝は、誕生日の女も合わせて全部で3人。

お祝いをダシにした売上貢献だろうな。


 安いとはいえシャンパン(スパークリングワイン)を入れたのも、主役を省いた3人で割れば負担が軽くなるし。


 主役以外の枝にとっては想定外の出費だろうけど、その不満も俺らが楽しませれば問題ない訳で。

ずる賢いけど、少しは使える客だ。



結歌(ユイカ)誕生日おめでとう〜!」

乾杯と共に祝いの言葉が飛び交う。


 それも束の間。

巧は人気なだけあって、そのトークもビジュアルも秀逸だ。

すぐにその席の注目を奪って、他のキャストは取り残されないように必死に食らいつく。


 挙句、テーブルマナーが疎かになる。

まぁ、気付いた俺がするからいんだけど。

巧はそれを解ってて、俺を自分の席に呼ぶんだと思う。


 もちろん、それだけじゃないのは解ってる。

売上とか指名に興味ない俺を、サポートしてくれてるんだ。


 仕事はちゃんとする。

だけど、興味はバカ女への罪科だ。

女なんて、みんな同じだろ?

感情的な割に計算高くて。

優しさや思いやりだって、目的の為の計算か、自己陶酔からくる偽善だろ。


 自分が1番で、ここの客同様。

お姫様でいたい、守られたいだけの生き物だよ。

走れメロスだって女じゃ成り立たないよな?

感情に流されて、周りを踏み台にして、自分の為なら何だって裏切る生き物だ。


 だからって、誰にでも罪科を下す訳じゃない。

誰かを陥れたり犠牲にしてまで、ホストにのめり込むバカ女がターゲットだ。


 例えば、ライバルの客を陥れたり、子供を放置して遊んでたり……

例を挙げればキリがないけど。

そんな奴らは色恋営業で惚れさせて、散々金を巻き上げて、使えなくなったら冷酷に切り捨てる。


 そのバカ女な部分を理由に、嫌いになって当然だろ?って。


 自業自得なんだよ。

最も、そんな女は受けた悲しみしか映らなくて。

与えた悲しみなんか理解も出来ないだろうけど。


 その時、枝の1人が煙草を灰皿に押し潰した。

すぐに俺は、右隣の客の話に相槌を打ちながら、新しい灰皿に手を伸ばす。

途端、スッと使用済の灰皿がこっちに寄せられた。


 それはほんの少しの移動だったけど……

俺が無理なく交換出来る位置まで動かされてて。

それをしたのは左隣の、ユイカと呼ばれてた誕生日の女だった。


 驚いて一瞬、右隣の下らない話が頭に入らなかった。

するとちょうどオチの部分だったようで、スルーしてしまった俺に。


「サイカくんって働き者だね。

1番下っ端なの?」

なんて皮肉が向けられた。


「ごめん、無駄に几帳面でさ。

その分、女の子に対してはマメだよ?

てかマリちゃんは、どんなタイプが好き?」


 さっき自己紹介を済ませたその女に、適当な言い訳とフォローを零しながら。

新しい灰皿を上に重ねた使用済の灰皿を、ヘルプの側に寄せると。


「ああっ、すいません!」

ようやく気付いた新人ヘルプが、その役目の怠慢を謝罪して。

新しい灰皿を配置した。


 それを見たマリちゃんは、誰が1番下っ端なのか気付いたようで。

「可愛いイケメン、仕事しろ〜」と茶化す。


 まぁホスト慣れしれたら、丸イスに座ってる状況でヘルプだって分かるだろうけど。


「これでも頑張ってるんすよ〜。

新人なんで見逃して下さいっ」


「ど〜しよっかなぁ?

まっ、顔が好みだから許す!

あっ、サイカくんの方が断然イケメンだけど、私カワイイ系が好みでさ」


「羨ましいな、瞬。

マリちゃんみたいな魅力的な子に、そんな事言われて」

わざと拗ねながらも。

俺はなぜか、マリちゃんの興味がヘルプに向いてホッとした。


 心の中にはユイカという女の、さっきの動作が引っかかってた。


 俺は女のそーゆう行動が嫌いだ。

男に媚びてるようで、いい子ぶってるようで、気が利くアピールのようで……

鬱陶しい。


 だけど、さっきのそれは違った。

笑顔で「はい!」と渡すどころか、ヘルプの瞬と盛り上がっててこっちを視界にも入れてなかった。


 まるで手がぶつかったってくらい自然で。

邪魔だから退けたってくらいさりげなく。

でも自分の前の灰皿じゃない訳で、明らかに俺の作業を補助してくれたものだった。


 しかもその補助はあまりに控えめで……

仕事も奪わず、作業も遮らず、気も使わせず。

話し込んでる状況は、お礼を言う隙すら与えない。


 どんな子なんだろう?

ここまで完璧な気遣いに、興味が湧いた。

すかさず。

話してた瞬に放置されて、席内オンリーになったその左隣に話を振る。


「ユイカちゃんも、可愛い系が好き?」


 こっちを向いたその子をちゃんと見ると。

ものすごくキュートで、芯の強そうな顔をしてた。


 もちろんパッと見もダントツで可愛いかったから、敢えてマリちゃんを可愛いじゃなく魅力的と褒めた。


「ん〜、私は……」


「結歌の好みは変わりもんでしょ?

この子ってば、いつもヘンな男ばっか好きになるの!」


 お前に聞いてねぇよ右隣、いいから瞬と話しとけよ。

横ヤリにイラっとするも。


「うん、そーだね!

ちょっと個性的な人を好きになって来たかなっ」

ユイカちゃんは楽しそう答えてた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ