第89話 雪の日11
そして楓は今、命が失われることばかりを気にして余計に体力と気力を消耗している状態でもある。そんな楓の肩の力を抜いてやりたかったのだ。
「え、この流れおれが悪いの? 変なとこ気にしたのも、ぼけっとしてたのも俺じゃないじゃん」
「楓!」
村へ戻るために強制的に思考を止められた挙句、結局放置したままになっていた涼が責めるように叫んだ。
楓に思考の邪魔をされ新たな情報を与えられたことで、今やるべき最優先事項が「情報と感情を処理する」ことから「村へ帰る」ことに切り替えられたのだ。
「あ゛あ゛もうわかったよ。じゃあな、ひすい!村で待ってるからな! 絶対に連れてこいよ!」
どうやら翡翠の気遣いは効果があったようだった。死に囚われていた思考を別のものに向けることが成功したようだ。
やっと肩の力が少し抜けたらしい。混乱した様子も思い詰めた様子も鳴りを潜め、年相応の生意気さの方が目立つようになっていた。
「ああ、必ず生きたまま届けてやる。行ってこい。また後で会おうな」
少し元気の戻った様子に翡翠は安心した。これなら村まで2人だけで戻らせても大丈夫そうだ。そう思い、珍しく雪で覆われた山の子どもの秘密と夢が詰まった遊び場から、その創り主であり持ち主である少年2人を送り出した。
(にしてもだ。雪宮の妖力にあいつに瓜二つの顔。髪質は俺か? ようやく救出に成功したんだな桜羽。長かった。本っ当に長かった)
寝ている方の白髪を見て翡翠は確信した。あとは帰ってきたら桜羽と答え合わせをするだけだ。
(最後に会った時より背が伸びてたな。きっと体重も増えて重くなってるんだろうなぁ。時羽。俺がお前のことわからないはずないだろう)
—お前が俺のことを忘れていても、俺はお前のことを絶対に忘れたりなんかしないよ
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