第85話 雪の日⑦
これを大人達が見たら、何と言われるだろうか。辺り一面降り積もった雪のせいで、この場に他に人が来たか来てないかは目に見えて分かってしまう。
初めにこの場所に来た時に見た感じでは、足跡は楓のものだけで動物も人間もこの付近に来た痕跡は無かった。
こんな状態でもしまだ見ていない山の反対側から、子供達を引きずったような後でもあれば、本当に犯人にされてしまうかもしれない。この秘密基地の存在を大人達が知らないという事実も、それが現実味を帯びてくる原因となっていた。
「そうだ、足跡! もしこの子達が自分の足で歩いてきたような証拠が見つかれば!」
涼が叫んだ。
「来た時の俺の足跡しかなかったっ」
「基地の反対とか見たの?! どうせ軽く見回しただけでしょ。ほら、行くよ!」
既に絶望して青ざめている楓の手を引っ張り、基地の裏側へ回る。山に登り始めた時とは全く逆の行動になっている。
「ほら、どうって……出てきちゃったよ引きずった跡と足跡ぉ」
「嘘だあぁぁぁ! 俺ほんとにやってないぃぃぃ!」
基地の裏側に回ると、確かに引きずった後とその隣に子供サイズの歩いてきた足跡があった。これを事情の知らない大人達が見れば、楓が子供2人を殺して小屋まで引きずってきて隠し、涼に手伝ってもらい隠蔽しようとしたと思われてしまう。楓はそう思い込んだ。
いよいよ2人の間で、自分がやっていない罪で村人達に怒られる、いや、最悪罪に問われてしまう可能性が濃くなってきた。もう本当に信じてもらえないかもしれない、自分は犯罪者になるんだと脳内で勝手に結論付けた楓はいよいよ涙が出てきた。それに釣られて、ちょっと混乱した楓を置いてくるのが可愛そうに思ったばかりにのこのこついて行き、こんな事に巻き込まれた涼も釣られて涙が出てきた。
もう十歳にもなる楓と涼は、ここ数年でこんなに泣いた事が無いというくらいに泣いた。ここは山の奥であり滅多に人が来ない場所で、積もった雪のせいで音は普段以上に吸収されてしまう。当然村までは声は響かないし、誰も気付いてはくれない。慰めてもくれないし、宥めて話を聞いて大丈夫だと落ち着かせてもくれない。
「本当にどうしよう、母ちゃん達に見つかったらなんて言われるか……」
「もう埋めるしかないよ。どうせこんな山奥、滅多に人来ないんだし、犬とか猪とかでも堀り返せないくらい深く埋めればバレないんじゃない。もうそれしかないよ」
「だから何で隠蔽の方向? 俺がやってないって信じる気ないよな? 本当に俺やってないんだって」
しゃくり上げながらも自身の無実を主張する。あーだこーだ言い合ってはいるが、解決策は全く見つからない。そんな時だった。とうとう、大人に見つかってしまった。
「なんか声聞こえると思ったら、楓と涼か?何やってんだ?」
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