第84話 雪の日⑥
2人は扉の代わりの布をめくり、基地の中を覗いた。
そこには先程とはほとんど変わらず、ボロボロな少女と、ただ眠っているだけに見える少女の2人が横たわっている。しかし、ボロボロな少女のゼイゼイと苦しそうだった呼吸が止まり、変わりに顔色は一層白くなり、まるで息を引き取ったばかりの死体のように見えた。
自分が見たものが幻覚でなく現実であったことを悟った楓は、布をめくったそのままの形でフリーズしてしまった。
一方で涼は、予想外の光景に布をめくっていた手を思わず離し、基地は半分だけ扉の代わりの布を開ける前と同じ状態になった。
涼は自分を落ち着かせるように、両腕を開き上体を軽く反らしながら大きく深く息を吸った。そして開いた両腕と反らした上体を元に戻しながら、息を吸った時と同じように大きく深く吐き出した。息を吐き切り、手が体の前に垂らされたまま数秒が過ぎる。ゆらり、と俯いたまま楓のいる方に方向転換した涼は、少し前までの緩慢な動きを何処かに放り捨て、まるで獲物に飛びかかる野生動物のように楓に掴みかかった。
「どうして僕のことなんか連れてきたのさ!! どうすんのこれ?! どうすんのこれぇぇぇぇぇ!! 僕お前の犯罪の隠蔽のために呼ばれたのかよぉぉぉ!」
「現実だったぁぁぁ! 俺何もしてないっ、来た時からこうだったんだぁぁぁ! 俺無実ぅぅぅ!」
叫び声を聞きはっと我に帰った楓も、ようやく取り戻していた落ち着きを遥か彼方へ投げ捨てた。
「自分から犯人じゃ無いっていう奴犯人だったことあんの知ってんでしょ?! この前の米泥棒だって、野菜泥棒だってそうだったじゃん! 本当どうすんの? 僕人の始末とか死体の処理とかしたく無いんですけど?! 村に降りてきたんだったら大人連れてこいよおおお! 子供の手に負えないの分かってんじゃん!!」
「降りた途端お前がいたからだよおぉ! 本当なんで同じ子供連れてきちゃってんの俺?! てか発想が怖い! 何で埋めて隠蔽する方向なの?! お前の方が犯罪適正あんだろ絶対!」
もはや阿鼻叫喚、地獄で罪を償いながら己の罪に対して言い訳をする亡者達の叫び声である。
片方の子供が見たことのない程の大怪我を負い血塗れのボロ雑巾のように倒れていることの衝撃が大きく、呼吸の確認も意識の確認もしていないのに、人の死に触れたことのない子ども達は勝手に両方とも死んでいると理解していた。
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