第83話 雪の日⑤
明けましておめでとうございます!
今年一年よろしくお願いいたします
涼は「はあぁぁ」と深いため息をついて、辺りを見回した。既に村が見えないほど山の奥に入り込み、基地までもおそらくそう遠くない。
それに、しょぼくれ始めた楓を放って自分1人だけで村に帰るほど鬼ではない。楓が何を見たかは分からないが、きっと普段とは違う環境に興奮して、そうでもないことでも何倍にも恐ろしいことに感じてしまっていたのだろう。そう結論付けた涼は、巻き込まれる覚悟をした。
「もう、しょぼくれないの! ついてってあげるから、楓が見たってものが現実かどうか確かめるよ。」
「うん、ありがとう。あと、無理やり引っ張ってきて、ごめんな」
「今回は許すけど、次やったら問答無用でこれ食らわすからね」
涼は懐に忍ばせてある短刀をちらりと見せる。楓はビクッと肩が飛び跳ね、目線を逸らしながら、
「覚えておきます……」
とだけ答えた。それを聞いた涼は、これは絶対に後で同じことやらかすやつだと内心思いつつ、まあ言質は取ったしいいかと見逃してやった。
それからは驚くほどに順調に歩みを進めることができた。先程までは、慌てて我武者羅に走っていた分、無駄な動きが多く、何度も転び、体力の消耗も激しく息も切れ、徐々に走る速度が落ちつつあったことに加え、走るつもりのない涼を無理やり引っ張っていたことで余計に時間を食っていた。
楓が落ち着きを取り戻し、涼も楓についていくことを決めたことで、普通に歩くことができるようになったのだ。
緊張のせいか、道中は終始無言だったがそれももう終わる。いよいよ基地が見えてきた。もうすぐ何が起きていたのか、現実を2人は知ることになる。
基地の前に立つと、二人は扉の代わりの布に手を掛けた。今までにない程心臓がドクドク鳴り、自分の心音が不安感と緊張を倍増させる。きっとこれから先しばらくはこんな思いをすることは無いだろうというくらいのこの場から、すぐにでも逃げ出してしまいたい。
それでも、中を見ても何も無い可能性もゼロでは無い。それに、ここまで来て逃げるわけにもいかないし、きっと後悔する。開けて一瞬の後悔をするか、開けずに一生の後悔をするか、そして、そのどちらでも無いか三つに一つだ。
「じゃあ、開けるよ。」
「うん。」
—どうかなにもありませんように。
心の中で呟いて、普段は祈らない神に祈った。
読んでくださりありがとうございました。
感想、評価等お待ちしてます!




