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白狐の道行き  作者: 大和詩依
第8章 孵化
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第82話 雪の日④

(本当になんなの?こんなに話の通じない楓なんて初めてだし……ん? この方向って基地? まさか雪で壊れてて動揺してるとか? でもとりあえず、ずっと掴まれてる手首が痛い)


 最初はあまりにいきなり過ぎて、楓の意図を掴もうと何とか対話を試みていたが、次第に事情も話さず、こちらの都合も聞かずいきなり自分を連れ回されていることへの怒りの方が勝ってきた。


「いい加減に、しろおっ!」


「ぐはっ?!」


 楓は短時間での二度の登山と、基地で見たものに対しての動揺のせいで我武者羅に走ったことによる無駄の多い動き、そして抵抗する涼を無理やり引っ張ってきたことで、その分割増で体力が削られていた。  


 子供特有の無尽蔵な体力にも限界がある。涼は楓の息が切れて、手首を掴む力が弱まったタイミングを見逃さなかった。自分の腕を掴む楓の手に手刀を叩き込んで外し、そのまま距離を詰めて腹に一発、拳をたたき込んだ。


「ちょっと涼さん、それは酷くないっすか?」


「いきなり人の手首掴んで山ん中引きずり込んだ挙句、事情も説明しない奴が言えることですかねえ? 僕が持ってる短刀でどつかれなかっただけありがたく思いなよ。」


「反論できねえ」


「で、何があったのか説明してくれる?」


「おれもよくわかんない」


「はあ?!」


 説明もなしに人の手をつかんで、無理やり雪山に連れ込んだと思ったら、理由はまさかの分からないときた。涼は思わず大声を出してしまった。


「分からないって、はぁ?! じゃあ何で僕のこと無理やり引っ張ってきたのさ!」


「おれだって! 訳がわかんなかったから村に帰ったんだよ!混乱してたし、そもそもあれが現実だったのか分かんねーし」


 普段は穏やかな涼も流石に怒りを隠せなかった。怒鳴られた楓は負けじと怒鳴り返したが、次第に自分以外に頼れる人がいることで落ち着いてきて、そもそも自分が見たものは現実だったのか分からなくなった。最後は消え入るような声で呟き、涼を睨みつけていた視線を外す。


 そんな楓を見て涼はなんだか自分が悪いことをしたように感じてきた。確かに理由も話さずいきなり人を引っ張り回した楓も悪い。それでも、混乱している本人にさらに追い討ちで怒鳴ったことは、仕方がなかったことかもしれないけどやっぱり悪い気がしてきた。

読んでいただき、ありがとうございます!

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