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白狐の道行き  作者: 大和詩依
第8章 孵化
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第80話 雪の日②

 人気もなく気温が低いせいで、普段感じることのないほど冷たく鋭い空気が容赦なく寒さを与えてくるこの山道を歩いていると、まるで世界に自分1人しかいないような気さえしてくる。


 楓は幼馴染みに声をかけてくればよかったと少し後悔し始めていた。それでも、今から引き返して村へ戻ろうという気持ちは少しもない。寒さに震え、腕をさすりながらも歩みを進めていく。


 山道を歩く傍らで、なぜこんなに外に出たかったのか、やるべきことは何なのか考えてみた。まず、恐らく自分以外の誰かが出来ること、もしくは気付いて何かしらやってくれるものではないのだろうと思った。


 なんせ今日のように雪が積もっていれば、村の通り道確保やら、決して丈夫で雪に強いとは言えない屋根が抜けることや、家が潰れること防ぐ為に屋根の雪を下ろすこと、畑や家畜の世話など、命に関わることは色々あったにも関わらず、朝変に早く目覚めることや自主的に家族や村人を手伝おうという気にはなれなかった。


 次に考えたのは、自分しか知らない場所で村人たちの共有地でない場所だ。楓が普段使っている場所は、殆どが村の共有地である。共有地であれば他の村人たちが既に見て回っているだろう。自分が行かずとも結局は何とかなる。


 加えて、隠れて育てている動物や植物などはない。ということは、自分に関わって、かつ村人たちが見て回らないような場所は1カ所しかない。山の中にある幼馴染みとの遊び場だ。


 そこまで考え至った時点で、楓はその近くにいた。行き場も決めずふらふらと適当に山を登っていたが、無意識のうちにいつも向かっている場所がある方向に進んでいたようだ。

 

 行き先が決まってからは速かった。歩いても安全そうな場所を優先して通っていることから普段の道のりとは若干違うが、そこまで時間をかけずに辿り着くことができた。


 遊び場は、山の中にしては木が密集しておらず開けた場所だ。そして、ただ開けている場所というだけではなく、木の間を利用し、木の枝や葉、植物の蔦などを使って作られた部屋のようなものがある。これは楓と幼馴染みが作った基地だった。山にいるときに急な雨が降り始めたり、冬の冷たい風や夏の日差しを避けるために使っていた。


「良かった、とりあえずどこも壊れてなさそうだな。」


 素人、それも子供がその場の思いつきで組み立てた物だ。今回の雪で壊れていてもおかしくはなかったが、運が良かったのか、遠くから見た限りだがどこにも損傷は見当たらなかった。


 基地の周りを軽く見回してみると、自分のつけた足跡が残るのみで、動物の足跡は一切ない。冬眠し損ねた動物も、冬眠から中途半端に起きてしまった動物も、少なくともこの付近に来ていないことは分かった。


 とりあえず、自分たちが作った基地が壊れていなかったことに安堵する。しかし、それと同時に自分の予想が間違っていたことが確定した。では一体、外に出なければならないという気持ちはどこから来たのだろうか。


 太陽が雲に隠れ、また雪が降り始めた。それと同時に空気も一段と冷たくなったように感じた。確か基地の中に寒さを凌ぐための道具が、何か置いてあったはずだと思い出し、中に入っていった。

読んでいただき、ありがとうございました!

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