第79話 雪の日
とある雪の日、なんとなく、でも必然的に登った山の中であの2人と出会ったことが全ての始まりだった。
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この地域で雪が降ることは珍しかったし、ましてやそれが積もることなど1年に1度あるかないかくらいだった。しかし、昨晩から珍しく降っていた雪は、朝になっても降り続け昼頃には降ったり止んだりを繰り返していた。道には歩けば足跡がくっきりと残るほどに雪が積もり、偶に顔を見せる太陽の光がそれを溶かすことはなかった。
そんな中、特にやることもなく一日中だらだらして過ごすつもりだった冬井楓はなんとなく、外に行かなくては、と感じた。
何でかはわからない。
その日の暮らしに必要なものは足りていたし、面倒を見なければいけない畑も他の家族が見に行っている。近所に住む幼馴染みとの約束も今日は無い。
本当に直感的に外に行かなければならない、そう思った。
むしろ行かなければ後悔するとまで感じ、楓は布団とくるまっていた毛布をたたみ、長く伸ばした髪を解かし、外へ行く支度を始めた。
滅多に雪の降らないこの地域に住む楓の家には、雪用の履き物も上着も何も用意されていなかった。もしかしたら古いものでもいいから、何かあるかもしれないと探しては見たものの何も出てこない。
諦めて自分の上着に加え、使われていない家族の上着を重ね、足袋も贅沢に2枚重ねた。動きにくいが、寒さを防ぐ方が重要だ。これ以上できることがないくらい重ね着が終わると、草履を履き外に出る。
「うわ、さっむ……」
外には村人1人居なかった。恐らく住居が集まる場所から離れた場所にある畑で、雪かきやら何やらしているのだろう。いつもならどんな時でも誰かしらその辺を歩いており、すれ違えば必ず話しかけてくるため、誰とも会話をせずに村を歩くのは不思議な気分だ。
歩き慣れない雪道に加え、足袋を2枚履いていることもあり、いつもより歩く速度は遅くぎこちなかった。既に村人が歩けるように、人一人歩けるくらいの幅だけで雪掻きをして通り道が作られてはいたが、それでも転ばないように、一歩一歩踏みしめて慎重に歩いていく。
村中を歩き終えてもまだ帰る気にはなれない。ここまで意味もなく何かを強く感じることは初めてだった。もう寒いし、家に帰ってまた布団の上で毛布に包まれることが出来たら、どれだけ暖かいか考えたが、漠然とした不安感だけが、帰ってはいけない、と頭の中で警鐘を鳴らす。
普段自然の中で遊びまわっている中で、自分がなんとなく感じたことが命を守ったり、怪我を防いだりすることは身に染みて知っている。これはきっとはっきりと認識できていない違和感が原因であるのだろうといつも思っている。
そう考えると今自分が感じているものとは少し違う物ではないのかという疑問も浮かんではくるが、それを無理やり心の奥底に仕舞い込み、外に出てやるべきことがある、この気持ちはそれを漠然と伝えてくれているのだろうといく思い込みで蓋をした。
いろいろ考えてながら歩き回っているうちに山の麓に着いた。幼馴染みと飽きるほど駆け回っている山は、雪が積もっていることもあり、流石に誰も足を踏み入れていないようだ。木々の間には見渡す限りの銀世界が広がっている。雪が音を吸い込むせいかいつも以上に静かな山を、また一歩一歩踏みしめ登っていく。
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