第78話
—あのおとは
確かそげき、といったか。おそらく長距離から攻撃ができるものなのだろう。
—では誰が? 何のために?
それができる道具を持っているのは敵。その敵は今戦っている敵とは同じ服を着ているから、あっちは味方同士なのだろう。
—味方を撃つ理由は? 私たちを捕まえる絶好の機会。逃すのは惜しいはずだ。
その答えは向こうからやってきた。
「花凛様! 時羽様!」
「そうかぁ」
つい数秒前まで感じていた腹の底から熱くなるような怒りの感情とは一変。頼れる大人がきたことによる安堵の感情があふれだす。
「ああ、そんなにお怪我をして。痛かったですよね。よくがんばりましたね」
「わたしのきずはね、ないの。もうなおった。でもかりんが」
「すぐに薬を作りましょう、と言いたいところですが追加兵の処理がまだ終わっておりません。染井集落には凄腕の医者がいます。そこまで運んで差し上げてください。私はここで残りの処理をします」
「かりんがしんじゃう!」
草花は時羽を落ち着かせるように抱きしめた。
「時羽様。花凛様も貴方と同じくらい強いお体を持つ一族の出身なのです。即時の回復力では劣ろうとも、生命力で劣ることは決してございません。だから安心して村までお行きなさい」
時羽は本当に悩んで悩んでしぶしぶ草花の言うことを信じることにした。
「……うん。そうかがいうなら、しんじるよ。そうかのこと。もししんじゃったら、いっしょううらむからね」
「勿論。恨んでもらって構いません。だからここは私に任せて早く運んで差し上げてください」
時羽は花凛が染井集落にたどり着く前までに死んでしまうのではないかという焦りから半分納得していないが、草花の言葉を信じて花凛をつれて染井集落に先行することを承諾した。
時羽を庇って大きな傷を追ってしまった花凛。うつ伏せに倒れてぴくりとも動かないその姿にあの嫌な感覚が襲ってくる。
心臓の鼓動がいつもより大きく速くなってしまう。その時は決まって、はやく元に戻れと思った。なぜ自分がその状態が早く落ち着けばいいのにと思ったのか、わからなかった。
でも今ならわかる。桜羽たちが別の言葉で教えてくれていた感情だ。
その感情は恐怖。
時羽は今、花凛を失ってしまうかもしれないという事実に恐怖を覚えているのだ。
傷だらけの花凛を背負って時羽は草花と二度目の別れを果たした。向かうは染井集落の医者の家である。一歩一歩地面を踏みしめながらゆっくりと歩き出した。
「時羽様、花凛様。あなた方はまだ命の重みを背負わなくてもいい。この戦乱の世。いずれ背負うことになるのです。でもまだ、今だけでも私に肩代わりさせてください」
草花は絶望の底から這い上がり、また歩き出した時羽を見送る。
「染井集落でまた、会いましょう」
狙撃兵から奪い取った魔導銃の銃口を対象の眉間に照準を合わせて構えた。
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