第72話 金盞花
最も暴れ回っていた槐が敗者となりあたりはしんとした。それこそもう追いかけてくる者がいないのではないかというくらいに。
「随分と静かですがまだ警戒を解いてはなりませんよ。時羽様、花凛様。奴の他にもこちらにも人員は割かれていますから」
「さっきコソコソしてた三人なら倒したよ」
「それは素晴らしい。では、こちらに割かれた人員はあと一名ですね」
そこから先の道は順調だった。あと一人先行する草花たちに向けられた者が気になるが、近くに気配はないから諦めたのだろうか。
それ以外の人員が向けられている気配はない。これはきっと桜羽が上手くやっているのだと草花たちは確信した。
「これ以上襲われる前に進みましょう。染井村は大きく強固な結界に守られているはずです。そこまで逃げ切ればひとまず安心でしょう」
♢♢♢
「三葉様。ご報告が」
「なんだ」
「送り込んだ部隊が目標と接敵。数十分前に戦闘に入りました」
「様子は?」
「我々の部隊を分断しながらそれぞれ撃破されつつあります。SN-001とその協力者の金髪頭を相手した槐他三名は全滅。有翼便の奴らも逃げ出しました」
室長三葉はフンと鼻を鳴らした。
「残りは一人か。『追手は撒いた。染井村の結界までいけばもう安心』とでも考えているんだろうな」
室長三葉は呆れたように言った。
「僕が敵が君たちであると認識してからなんの手も打たないとでも思っていたのか。そこの君。残ったのは誰だ」
「隊内きっての狙撃の名手です。特に今回は外から取り寄せた魔導銃を持っているので弾切れもないかと。十分追い詰められます」
魔導銃とはその者の持つ力、霊力、妖力、魔力などを銃弾に変え打ち出すことのできる武器だ。つまり、使用者の力が切れない限り弾の制限はないということだ。
「それでは足りん。奴は自分が囮になってでも子供らを逃すだろう。染井村手前の山にもう一班投入だ」
「承知いたしました」
部下は指令を伝えるべく足早に去っていった。
三葉にはわかっていた。SN-001つまり桜羽にまとわりついている草花は自らの命を犠牲にしようとも子供を守ろうとすると。
ならば有効な手は一つ。分断することだ。もう一班送り込んで、子供達と草花を分断してしまえば直接守ることはできるまい。
「僕の研究にはなんとしても雪宮と藤村が必要だ。絶対にここで取り返してやる。ああ、金盞花。待っていてくれ、後少しの辛抱だ。それまではどうか」
神など信じていない三葉は、祈ることはしない。ただ地道に研究結果を積み上げていくだけだ。それでも、自分の手だけではどうしてもどうにもできないことを願いはする。誰に願っているかは誰にも、本人すらも分からないが。
「どうか、死なないでくれ」
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