第71話 草花VS槐③
(これは、当たったら骨折じゃあすまなさそうですね。早めに終わらせなければ。時羽様や花凛様にも害が及んでしまうかもしれない……って戦ってる?! しまった、こっちに割かれた人員は五人! こいつばかりに気を取られすぎでしたね。まああの程度の兵ならば余裕でしょうけど。心配だから早く終わらせましょうか。)
草花はある程度の長期戦をするつもりで槐を相手していたが、戦況の変化に伴い作戦も変更した。
大体の下拵えは終わっている。あとは致命傷となる一撃を入れることができれば、この勝負は草花の勝ちである。この勝ちはただの勝ちではない。時羽と花凛を守り切った上での勝ちである。
そんなことを考えている間にも金棒による猛攻は続いていた。草花は簡易結界を張ったり、避けたりしながら先ほどまで槐の体を撫で付けていた品のある扇子に、隠し持っていた薬剤を何の躊躇いもなくぶっかけた。
「まだそんな玩具で戦うつもりか! もっと本気でかかってこい! それじゃあ俺がつまらないだろ!」
草花はそんな挑発にはのらない。ただ冷静に機会を待っていた。
――まだ
槐は金棒を頭の上まで持ち上げ、そして思い切り草花めがけて振り下ろした。本日四つ目の蜘蛛の巣状のヒビを地面に作成しただけで終わってしまう。
――まだだ
避けられた槐は重い金棒をもう一度振り被って、今度は草花の頭蓋骨めがけて金棒を薙いだ。草花はそれも屈んで避けた。もう一度金棒を構えて反対側から胴体目指して薙ぐ。
――よし、今だ!
草花は胴体に当たる直前に、襲来る金棒に手をそっと置いて地面を蹴りなんと金棒の上に飛び乗ったのだ。そして金棒を二、三歩走り、薬剤をたくさんかけた扇子で首元に飛び込むようにして、槐の首を切りつけた。そして切ったらすぐに槐の頭の上で回転して離脱。そして華麗に着地した。
だが攻撃は失敗したようで、槐は首から血を垂れ流しただけですんでしまった。それでも草花の余裕ある態度は崩れなかった。
「お前の本気はその程度か! ちょこまかと避けるだけで攻撃の手段もその程度! つまらない、俺はつまらないぞ!」
「バカですねぇ。決着ならとうの昔についていたでしょうに」
「そうだな。俺様の圧勝だ」
「おや、まだお気付きにならない。ならば教えて差し上げましょう。ご自分のお体に目をやってみなさい」
草花は呆れたように、槐に本当の結果を教えてやった。
槐は不本意だが自分の体を見る。
「?!」
身体中に多数の切り傷が刻まれ、その全てから血が垂れ流しになっていたのだ。首の傷も同じだ。大きな血管を切られているから、出血量が凄まじい。
草花がただ扇子で槐のあちこちをなでつけていたのも、実は攻撃だったのである。
本人は無傷だと信じ込んでいたが、実際は傷だらけの死に近い状態であった。
「戦っているうちは気分も上がってお気づきにならなかったでしょう。今のあなたは血が足りていません」
「なぜだ?! なぜお前が攻撃していないのに俺様にこんなに傷がついているんだ! そうか、これは幻覚だな!」
血を流しすぎてとうとう地面に立っていられなくなった槐は、地面に倒れてからもぎゃあぎゃあと喚いた。
「残念。はずれです。私の扇子は特注品でして、刃物としても使えるのですよ。それに体の感覚を麻痺する薬を使えばあら不思議。相手は自分が攻撃されていることに気づかない。知らぬうちに三途の川を渡りかけているのです。持っててよかった、『主戦力でない薬』ですね! 生かしておく必要もありませんし……そうですね。あなたの死因は出血死というところでしょうか」
「ふざけるな! 俺はまだくそみてぇな態度をとってきた部下の始末が済んでねえんだ」
「目的すら忘れているのですね。それならば好都合、それに私たちは前に進まねばならないのです」
槐は立ちあがろうとすると力が抜け、うまく動けない。次第に目の光が消え始め、寒さを感じ始めた。
「ああ、そうそう。私には冥土の土産など必要ありません。ですが、あなたはそろそろのようなので、冥土の土産とやらを差し上げましょう。そうですねぇ、あまり相手を舐めてばかりいると、首取られますよ、と。今回のように。ぜひ来世で活かしてください!」
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