第69話 草花VS槐②
「無事ですよ」
上から声がした。どうやら跳び上がって避けたようだ。声も元気だし、怪我をしている様子もない。
槐は大きくて固そうな拳を何度も振りかぶり、難なく着地した草花に殴りかかるが、一向に攻撃が当たる気配はない。
ひらひらと攻撃を避けては、攻撃してくるその手を、地面を踏み締めるその脚を、いつの間にやら右手に持った鉄扇で撫で付けていく余裕ぶりだ。
「はははっ、そんなそよ風、なんの攻撃にもならん!」
槐は拳を握り締め地面めがけて振り下ろした。またもや轟音が鳴り響く。地面にはヒビが入ったが、先ほど殴った時よりもより強く殴ったようで、掌ほどの大きさの地面のかけらが周りに撒き散らされた。
草花は片腕で顔を覆う。地面のかけらや砂埃が目に入り視界を奪われることを防いだのだ。
「貴様がいくら避けようと、攻撃できない貴様が俺に勝てる確率は零だ! いつまで続ける?!」
「私が攻撃できないなんていつ言いました? もしかして思い込んでいらっしゃる」
顔面を狙って拳が打ち込まれる。後ろに跳んでかわす。攻撃による風圧はすごいが、ただそれだけだ。草花の体には何一つ損害を与えられていない。
「攻撃できるとでも? まさかさっきからひらひら振っているその扇子が攻撃だとでもいうのか! 笑わせてくれる!」
「拳による打撃のみが攻撃ではないのですよ。あなた軍に所属して、他の者の戦い方を見る機会があんなにもあるにも関わらず、そんな考えなのですか?」
「貴様! また俺に舐めたことを言ったな!」
「それをわかる頭があるようで、結構。よかった、よかった」
草花は開いた扇子を口元に当て、隠すようにした笑みを浮かべた。
それを見た槐はまた激昂して地面に拳を振り下ろし、三つ目の蜘蛛の巣状のヒビを作った。
それもひょいと避け、頭上で一回転して背後にまわる。今度は鉄扇で槐の背中と太ももそれから左腕を撫でつけた。
「ほうら、また攻撃が入りましたよ」
(草花、なんでわざわざ怒らせるんだろ。作戦かな)
影から見守る花凛は二重の意味でハラハラしていた。長引く戦いでまともな攻撃をしない草花と、わざわざ怒らせるような言動。相手がいつまた激昂して空気を振るわせるかもわからない状況も恐かったのだ。
隣の時羽をちらりと見る。ハラハラしている自分とは対極にただじっと戦いに視線をやっていた。怖がっている様子も興奮している様子もない。ただ見ているのだ。
「それが攻撃だと言い張るか。痛みどころか痒みすらないわ! そこまで腑抜けた真似をするのなら、本物の攻撃というやつを見せてやる!」
槐は背中に背負っていた金棒を手に持った。鬼の容姿に金棒。より鬼らしさは増すばかりだ。
金棒を薙ぐ。ただそれだけで突風が起こり、槐の前に生えていたそれなりに大きな木が折れて倒れた。草花は足を踏ん張って堪えたが、その威力に息を呑む。




