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白狐の道行き  作者: 大和詩依
第7章 山中の戦い
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第67話 蓬

 草花は両腕に時羽と花凛を抱えて走っていた。敵の多くを桜花が引き受けたから、追手は少ないもののまだ完全には撒ききれていない。


 追手の数は五。囲まれてはいないが、ずっと後ろにつかれている。


(どうする、速度を上げるか? 飛ぶか? いや、飛ぶのはダメだ。隠れ場を失う)


 木の根を飛び越え、地面を蹴り跳躍する。着地したのは木の枝の上。木を避けながら走るよりも、木の枝を利用して速度を上げることを選んだ。


 木の枝から木の枝へと軽やかに跳び移っていく。地面から木の上へといきなり上がり、そのままひょいひょい進んでいく草花を追手は目で追いきれなかった。


 慌てて視界からいなくなった草花を、上の方を重点的に探すが見つからない。木々のざわめく音だけがする。それは風によって揺れる木から発されるものなのか、逃げる草花が飛び移ることによって発されるものなのか、追手たちは判断出来なかった。


「ようやく撒けたようですね。お二人とも大丈夫ですか? だいぶ速度を出しましたが、苦しいとかありませんか?」


「大丈夫!」


「うん。へいき」


 草花は追手を撒いてから五、六本分木を進み、太くて安定感のある枝の上で一旦停止した。木の影に隠れながら後ろを確認する。どうやら見つかっている様子はない。


「それは良かった。では一旦下へ降りますね。奴等のきっと我々が木の上にいると思って探しています。その隙をついて地面から先に進みましょう。あとすこしで隣村です。今回の旅はいよいよ終わりが見えてきましたね」


 地面に降りるときは、内臓が浮くような感覚がしたが、時羽も花凛もその感覚は嫌いではなかった。


 地面に音もなく着地し、これまた足音で見つかってしまわないように気を配りながらも急いでその場を離れる。


「あとどれくらい?」


「そうですね、山2つ、ですかね……」


「遠っ! それもう隣村っていわなくない?」


「そうなんですよ。なんせここら辺は立地が悪くて」


 どれほどの時間がたっただろうか。気配を探る限り追手は近くにいない。高低差を利用して一旦視界から消える作戦はどうやら有効だったようだ。


「一旦下ろしますね」


「わかった」


 断りを入れてから草花は両腕に抱えていた時羽と花凛をそっと地面に下ろした。


 ぱきん。


 木の枝でも踏んだのだろう。何かと何かが当たる音がした。


「ぬうううん!!!」


「っ!」


 突如遠くからバキバキと木がなぎ倒される音がした。そして草花たちの隣を激しい風と共に何か大きなものが通過する。


 草花たちの隣を通過し、さらに木をなぎ倒したところでようやくその何かは止まった。土煙がひどく正体を見ることができない。野生動物にしては人間味のある声がした。


「下がって! どこか木の後ろに隠れていてください!」


 二人はすぐに指示に従う。木の影に隠れ、ほんの少しだけ顔を出して正体不明の何かと草花の方に目線をやる。


 土煙が晴れた。そこにいたのは男だった。二メートルはあるのではないかという長身だが、受ける印象はそうではなく大きいというものだ。なにせ、横幅が草花三人分ほどある。


「子供たちに手を出すというならば、その命貰い受ける!」


「上官に向かって命を奪うとは、随分生意気なんじゃあないか? なぁ、(よもぎ)よ」


 大男は豪快に歯を剥き出して笑った。


 

読んでいただき、ありがとうございました!

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