第66話 桜羽VS軍服集団②
若き軍服の少年が恐怖に駆られ、声を裏返しながらも一丁前に主張してくる。桜羽はその少年の方をゆっくりと見た。
「生きる権利? そんなもの誰にだってあるさ。もちろんお前にも。私にも。だがな、その権利をいつでも守れるとは思うなよ若造。お前ら軍服集団は私らを捕まえるまで追いかけてくるだろう。永遠にだ。私の生きる権利を狙って永遠に追いかけてくる」
「だからなんだっていうんだ!」
「私は私の生きる権利を守るために、お前たちの生きる権利を蹂躙するというだけのこと。単純な話さ。私にとって、お前らよりも私が大事だったって話だよ」
「じゃあ有翼族は! あいつらだってお前の命を狙ったじゃないか!」
「あいつらはいいのさ。あいつらの仕事は運ぶこと。今後決着がつくまで命を狙ってくるということはないだろう。私は私たちの自由を侵略する者共を決して許しはしない。だがそれ以外の者は別にどうでもいいのさ。仮に今逃げて、しばらくしてその恐怖を忘れてまた牙を剥いてきた時は、ぶっ殺すだけだ」
「訳がわからない! 結局どちらもお前の自由を奪おうとする可能性があるじゃないか!」
「そうだ少年。可能性の話なんだよ」
桜羽は少しは自分の話が伝わっているじゃないかと言わんばかりに、声に嬉しさを滲ませた。
「より可能性が高い方を逃さず、低い方は今は見逃してやるのさ。全員相手するには武器が足りないからねぇ」
右手に脇差、左手に小刀を見せつけるように持ってぶらぶらさせる。
あまりにも酷い暴論だ。少年にはそう感じられた。そしてその暴論に従って今から自分は殺される。実感が湧かない。自分の意識からは現実味が消えていく。ふわふわしていて、音がよく聴こえなくて、まるで夢の中にでもいるかのようだ。
「さ、話はこれで終わりだ。全員自分がどうなるかは分かったろう? 続きを始めようじゃないか」
恐怖に飲まれていた少年の目の前から桜羽の姿が消えた。そう思った瞬間には、少年の首は胴体と離れていた。死にゆく少年は最後に、我先にと空域から逃げる有翼族と、自分の首を飛ばした女が華麗に空中を跳んでいる姿を見た。
その姿は美しく、醜く逃げ惑う有翼族たちが霞んで見えた。自分を殺したのはこの女の人なのに、なぜか憎しみや悲しみが湧いてこない。それどころか、先ほどまで恐怖に飲まれていたのに、その恐怖すらどこかへ飛んでいってしまったようだ。
命を不自然に断たれたのにどこか清々しさすら感じる不思議な感覚を最後に、少年は目を閉じた。
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