第64話 ご武運を
時間が経つごとにどんどん軍服を抱えて空を飛ぶ有翼族が増えてくる。最終的に、有翼族二十人、軍服二十人の計四十名による包囲網が完成しつつあった。
もちろん完成までただ指をくわえて見ていたわけではない。集落に向けて全速力で駆け抜けている。それを見越した上で臨機応変に移動しながら包囲網をしかれたのだ。
たくさんの木々に囲まれていようと、所詮葉の落ちきった枯れ木だ。上から見下ろせば誰がどこにいるかだなんてすぐにわかってしまう。つまりこの包囲網から逃げ切ることは不可能であった。
「桜花様、包囲網が! 襲われるのも時間の問題です!」
あの中のどこかにいる指令が攻撃の命令さえ出せば、待機している有翼族たちは一斉に降下してきて、桜羽と草花に猛攻を仕掛けるだろう。
有翼族たちはただ軍服たちを運ぶだけが仕事かもしれないかとも期待はした。だが、眼光の鋭さと隠しきれていない殺気から、その期待も外れていることはもう承知している。
それに、有翼族に連れてこられた軍服二十人もいる。桜羽と草花はそれぞれ子供を抱えたまま四十名の相手をしなければならないのだ。
「草花、時羽と花凛つれて先行けるか?」
「桜花様! お一人で残るおつもりですか?!」
「鉄扇も脇差ももっているだろうが、主戦力の薬を持たないお前よりは、まともな武器は持たなくとも私の方が強い自信はあるぞ」
「ですがっ!」
たいした装備はない。草花は下連土村に荷物のほとんどを置き去ってきた。桜羽が持つのはそこら辺で拾った質の悪い日本刀一振と小刀のみだ。この局面を逃げ切るには、正面から突っ込んでいく殲滅戦ではだめだ。もっと陣形を工夫しなければ。
「なあ、お互い守るもの抱えたまま戦ったんじゃ、中途半端にしか戦えないぞ。私の大事なものはお前に預けるから。お前はそれを守ってくれ。私の大事なものを守るお前を私が守るから」
「自爆覚悟の指示ではありませんよね?」
「もちろん。全員ぶっ殺す算段はついてるさ。まあ、全員一気に相手ってのは不可能だからな。何人か抜けられるかもしれないけど、それは任せていいか?」
「っはい! お任せください。お二人をお守りいたします。でもせめてこれくらいは持っていてください!」
草花は隠し持っていた脇差を桜花に向かって投げた。桜羽はその方を見もせずに刀をしっかりと受け取った。
「ではこの刀、借り受けるぞ」
「はい。合流予定地点であなたの無事をお祈りしております」
草花は桜羽から時羽を受け取り、両手で二人の子供を抱えた。そして進路方向は変えずに木々を盾するように間を走り抜けていった。
「ほう、二手に分かれることを選ぶか。ならば我らも別れるのみ。番号1番から5番は金髪を追え。残りは白髪の確保だ。いいか。無謀にも我らに武器を向けている女と、抱えられて逃げているガキどもは貴重な実験体だ。傷つけてもいいが生かしたまま捕らえろ。金髪の方は殺してしまっても構わん」
「はっ」
空の集団が動き始めた。司令の指示通り、大半は残り桜羽にむけて武器を構える。そして少数は草花の方へ軍服を抱えたまま飛んでいった。わざわざ抱えていったということは、上から爆弾の様に落とすのであろうか。
そうであっても草花ならどうとでも対応できるだろと、ある意味雑とさえ言える様な思考で、桜羽は心配事の一覧から草花のこの先の動向を外した。
「まずはこっちをなんとかしなきゃなぁ。お前らの大半はここが墓場だ。悔いはないな?」
桜羽は凶暴に笑う。
草花から借りた脇差を腰帯に適当にさしてから刀身を鞘から抜いた。
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