第63話 罠
桜羽は同時に二人の相手をしていた。持っているのは小刀のみ。下手に長さで勝る日本刀を受けるわけにはいかない。片腕には時羽がいるのだ。
舞い踊る様に、子供一人抱えている不利さなんてまるで感じさせないように、華麗に攻撃を避けていく。攻撃を避け切った時、だんだん大ぶりになっていた攻撃を互いに当てないために軍服たちの間には人一人が通れるほどの隙間が空いていた。
その隙間に踊り込み、二人の間で小刀を振るい一回転する。軍服たちの右喉と左喉に小刀は深く食い込み、切り傷を残した。
一拍おいて、首から血が噴き出す。軍服の男どもが首元を抑えるが血は止まらないどころか吹き出し続ける。大きな血管を傷つけられたのだ。
三人目と四人目。
どいつもこいつもほとんど手を出すことすらできずに倒れ伏していく。あっという間に残り一人だ。
その男は、首を切られて倒れ伏す者どもを盾にする様に飛び出てきた。握りしめた刀を振り上げ、力の限り振り下ろす。
それも桜羽は背後に飛んでかわした。誰を斬ることもなく振り下ろされた刀は地面を割った。ヒビは蜘蛛の巣状に広がり、地面はめくれたところさえある。
ヒビが広がりきる直前に桜羽は軍服に向かって地面を蹴る。ひびを飛び越え、軍服の目の前に到達すると、そこで一回転して勢いをつけた回し蹴りを首に叩き込む。踵が首にめり込み、ごきりと骨が折れる音がした。
「貴様の蹴り如きで倒れるか!」
軍服は足に力を入れて踏ん張り、倒れることはなかった。
それを見た桜羽は着地し、その瞬間また地面を蹴った。左足を大きくひき、腰に捻りを入れて勢いを増した足で今度は男の右頬を蹴りぬく。
男はその場から動くことなく、攻撃を耐え切った。が、やはりかなりの損傷であったらしい。男はゆっくりと倒れていった。意識はまだあるらしい。
手も足も出ることなく、短時間、少攻撃で自分が倒れ伏していることに情けないやら恥ずかしいやら、信じられないやらさまざまな思いが渦巻く男は、どうにかして立ちあがろうともがく。
「しつこいぞ。首を折ったのにまだ動くか。手足でも折っておいた方がよかったか?」
「ちくしょう、こうなったら、援軍を、呼んで、やる‥‥‥!」
ただ一人残った軍服の男は、ぜえはあと荒く息をしながらそう呟くと、空高くに向けて何かを放り投げた。それは、放物線の頂点で爆発した。おそらく信号弾だったのだろう。しかし、桜羽の索敵結界には倒した四人と残っている一人以外に敵性反応はなかった。
結界の範囲外から援軍が来るとしても、悪あがきをして中途半端に殺されている哀れな男にとどめを刺して、この場を去ればいいだけの話だ。
念のため両目を潰して、とどめに首を掻っ切って苦しみを終わらせてやろうと小刀を構えた。その時だった。森がざわめいたのだ。
危険を感じ取った鳥が一斉に飛び立った様なざわめき方だ。何事かが起きたと判断した桜羽と草花は周囲を見渡した。
有翼族だ。軍服どもを抱えた有翼族が自分達を取り囲む様に索敵結界外ギリギリのあたりで飛んでいたのだ。
「はめられた! 草花一旦体制を立て直す! この装備じゃ勝てん!」
「了解しました、桜花様!」
手早く男の首を掻っ切り、絶命したか確認する間も惜しみ、目的地である集落の方へ走り出す。
抱えられている子供たちも、何か良くないことが起きているということは察知している。できる限り邪魔しない様に、落ちない様に、身体を縮めて事が去るのを待つばかりだ。
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