第62話 索敵結界②
木々の隙間を縫う様に桜羽と草花、宗次郎は走っていた。
「奴らどの辺まで来てる!?」
「すぐそこだ! 多分すぐにでも後ろに見えてくるだろう。宗次郎、お前奴らに見つかる前に変化して私らと逆方向に逃げろ。お前まで巻き込まれることはない」
「でもっ」
「この問題の九割は藤宮の問題だ! 今ならまだ巻き込まれる可能性は低い! 早く!」
「はあ?! 藤宮って、あんなのおとぎ話だろう? 人間と妖怪の共存物語の」
宗次郎はなぜそんな冗談を言うのかと、驚いた様に声を上げた。実際そうだ。藤宮とはとある妖怪ととある人間が戦ううちに互いに興味を持ち、最終的に一族の初めの二人になるという話だ。
大和国東部では妖怪と人間たちの共存の始まりの物語として広く知られている。もちろんこの話は作り話だとされているが。
「世間ではそうされているが藤宮は存在する! とにかく奴らは優先的に私らを狙ってくる! 私らに敵が惹きつけられているうちに行けっ」
「っ、分かった! 無事逃げられたら手紙くれよ! 心配だからな」
宗次郎は枯れ葉に化け、風に乗って遠くへ飛んでいった。誰も森のどこにでも存在する枯れ葉になんぞ意識を割かないだろう。おそらく宗次郎は無事に一行を抜け出すことができたはずだ。
桜羽の索敵結界には現在五つの反応がある。どれも結界の端から入ってきたものではなく、いきなり現れたものだ。反応が出現してから増加してはいない。
(五つか。これくらいなら戦いながらでも逃げられるか)
「草花! 腕は衰えてないな?」
「もちろんです」
「よし! 集落一つ前の村までに迎撃。その後集落まで走り抜ける!」
「了解!」
「時羽、花凛、目を閉じてろ!」
「わかった」
「うん」
直後、接敵した。数は索敵結界に突如出現した数と同じ五人。その全てが日本刀を持った軍服だ。一行を視認するなり、刀を抜き臨戦態勢に入った。もう交渉の余地はなく力づくで捕らえると言うことだ。
桜羽は一応武器として拾った日本刀を持っているが、荷物と一緒にまとめてあるから今は取り出せない。先ほどかろうじて帯にさすことができた鳥肉を捌いた小刀で応戦する。
荷物を宗次郎の元に全て置いてきた草花も、軍服の中に仕込んでいた脇差を出して構えた。
「貴様その服を着ていながらなぜ奴らを捕らえない?! 裏切り行為と見なすぞ!」
「ええ、それで構いません」
軍服の男が振り下ろした刀を脇差でいなし、近づいてきた男の首に脇差を刺した。男の首からは骨が砕け、肉が潰れる嫌な音がして、口からは潰れたカエルの様な音が漏れた。
まずは一人。
喉に刺さった脇差を力ずくで抜く。軍服の喉からは血飛沫が飛び、ゆっくり崩れ落ちる。それを草花はとても時羽や花凛に見せられない様な冷たい目で見下ろした。
背後から別の軍服が斬り掛かってきた。草花は、振り返りもせずに脇差を逆手で持ち、振り下ろされた刀に向かって突きを繰り出す。刀は草花からみて九時の方向に飛んでいった。
そしてやっと振り向き、武器を失った軍服の心臓を一刺し。心臓を守る骨も筋肉も丸ごと砕く、力強い一撃であった。
二人目。
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