第58話
ここまで旅をしてきてたくさんの人たちを見てきた。捕まり、自由を奪われ、体をいじられたことのない人々だ。それこそ、自分がそんな目に合うなんてことを小指の先ほども考えたことのない人々だ。
自分が置かれていた状況は、もしかした同じ目に合っていない人もたくさんいるのではないかと思い至ったのだ。ならば、自分がこんな目にあっていたのはなぜなのか。他の生活を知らないから、自分がいた環境がどう思われるようなものかはしっくりこない。
けれど、本来ならばおかしいもので怒りの声をあげ、追いかけまわされ狩られる動物のように逃げたり抵抗したりするべきものだったのではないかと頭の片隅に浮かぶことがあるのだ。
「なにももっていないから? それともなにかをもっていたから、なにか、ちがうから?」
「時羽様……」
――守られるべき年齢であるはずの、まだ成年まで時があるはずの子どもがこんなことを考えなければいけない世の中なんて
草花は世に恨む気持ちが沸いていた。それと同時に桜羽や時羽たちが自力で逃げ出すよりももっと早く見つけて助け出すことのできなかった自分に対する怒りも。悔しいやら恨みやら怒りやら暗い感情が次々にわいてくる。
「わたしたちは、いつまでおいかけられるの?」
「あなた方の血や持っている性質が希少であることが理由であると考えられますが、それは貴方たちの自由を侵して傷つけていい理由には決してなりません。いつまで追いかけられるかも正直、はっきり言うと分かりません。ですが」
草花は時羽の目に視線を合わせながら、はっきりと言う。
「貴方がまた同じ目にあおうとした時、今度こそ私が助けます。もう二度と同じ目にはあわせません。それに、私の他にも害するのではなく、守ろうとする人々は確かにいます。望んでいる答えを与えることはできませんが、今はこれで勘弁してくれませんか? 現在もう一人の守ろうとする側の方と調査中なので、いずれは貴方の耳に入れることが出来るでしょう」
「そうか、は、わたしの『どうして』にこたえてようとしてくれた。だから、ありがとう。こんなときはこういえばいいって、おそわった」
「どういたしまして。勘弁いただけてようで何よりです。そろそろ桜羽様たちも帰ってくるでしょう。準備も終わっていますし、何をして待ちますか?」
「そうかのはなしをききたい。きっとまだしらないこと、たくさんしっているから」
時羽は遠慮がちに言った。反対に、草花の目には嬉しさがいっぱいに浮かんだ。
「ええ、ええ! 私の知っていることなら何でも話しましょう。そうですね。まずは薬草の話なんてどうでしょう」
遠慮することなんかではなかった。草花は身内と認めた者限定ではあるが、話すことは好きだ。それに、ほとんど厳しい世界しか知らないこの子供には伝えたいことがたくさんあるのだ。
世界には生涯をかけて追及したくなる興味がそそられるものが山ほどあることを。生きていくうえで活かせる知識は沢山あるのだと。
胸が高鳴るような興味と生きていく術を教えたかった。形のない、奪われる可能性がない形ないものを両の手でかかえるほどにもっていて欲しいのだ。
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