第57話
「それに、わたしがおとはのむすめなら、もっとおおきくなってないとおかしい」
「それについては、私も疑問を抱くところです。でもこの世には、年齢を止めるすべはいくつかあります。その者の時間に干渉して成長を止める術、対象を氷漬けにして仮死状態にすることで成長を止める方法、封印術、結界術。他にもまだ知らない術もあるでしょう」
草花が指折り挙げていく成長を止めるすべは、どれも時羽は知らないし聞いたことすらないような物ばかりだった。
「わたしがおとはのむすめだとおもってるから。だからやさしくするの?」
時羽は心の奥底まで見透かすかのようにじっと草花の目を見つめる。この質問に対して草花は嘘を言ってはいけないと直感で感じた。もとより嘘をつく気はさらさらなかったが。
「ならちがったら?」
この小さな子供はただ目を見つめてきているだけかもしれない。それでも嘘をついたら、目玉を串刺しにされるのではないかというくらいの圧を感じた。
「桜羽様の娘かもしれないから優しくしているわけでは絶対にない、と言ったら嘘になってしまいます」
時羽はその言葉の意味を理解しているのかいないのかよく読めない反応を示す。もちろんこの話は時羽の理解の範疇を越えていた。だからと言ってそれを言葉にできるほどの語彙力も表現力もまだ獲得していないから、結局何も言うことが出来ずにいたのだ。
「白黒はっきりしない話は難しいですね。まだ分からなくても大丈夫です。ですが、いつかあなたにも分かる時が来るでしょう。大切な人が大事にしているものは、守りたくなってしまうものなんです」
「たいせつなひとが、だいじにしているもの?」
「はい。娘かどうかという点も確かに私が優しくする理由にはなり得ます。しかし、今あなたが私に優しくされたと思っているのならば、それはきっと、桜羽様が貴方のことをそばに置き守っているから。
つまり、あなたのことを大事な者だと思っているからです。本来優しくすることにこんなごちゃごちゃと理由をつけることは珍しいですが、あえて言葉にするのならばこんなものでしょう。貴方はまだはっきりと言葉にしたほうが不安にならないでしょうから」
なぜ優しくされているのか分からなかった。理由の検討がつかないと、形のない何かが体の中を這いずり回っているような気持ち悪さと、何も見えない暗闇の中にたった一人で取り残されたような不気味さを足したような感覚に包まれた。
これが不安だったのかと、すとんと言葉が胸の内に入ってくる。この腑に落ち方はまるでこの言葉を元から知っていたかのようだ。
「……あなたのことを桜羽様の娘なのではないかと思っていることをお伝えしたのは、あなたにその可能性があることを知っておいて欲しかったからです。もしも娘ならば、あなたの身はとても貴重なものであると同時に、それを狙う輩は必ずいます。その危険性も知っておいて欲しかったのです」
「わかった、けど」
時羽は膝をかかえて少しうつむいた。
「なんでわたしたちはいじめられるの? なんでにげなきゃいけないの?」
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