第53話
宗次郎は主として使う術、変化術の副産物で観察眼が鍛えられていた。化けることができても、化けた相手の歩き方、話し方、癖。とにかく見た目以外の要素まで真似なければ親しい相手には勿論、相手を少しでも知っている人にも違和感を抱かれ、ばれてしまう。
妖術で真似ることのできるのは見た目だけであり、その他は自分でなんとかしなければならない。それは観察と実践の繰り返しで身につけていくものである。化け狸は化けられるだけでは一流とは言えないのだ。
宗次郎はその点一流の化け狸だった。
(見事にすれ違ってるな……。これも種族間の価値観の違いか?)
草花の笑みの裏に悲しさや寂しさといった感情が秘められていることをなんとなく察する。
その隣でなんで懐いてるんだろうなと笑っていう桜羽を見ると、本当に草花を助けたことで恩を売ったなんて小指の先ほども思っていないのだと伝わってくる。
話を聞いても結局宗次郎に対して害を与えてこないのかということは分からなかった。だが桜羽の敵になったら即座に殺されるということは分かった。
(こりゃあ面倒くせえ執着だな。下手にどつかれねえうちに退散した方が良さそうだ)
「ねえ、桜羽。早くご飯獲りに行かないと真っ暗になっちゃうよ」
隣でずっと大人しく話を聞いていた花凛はとうとう耐えきれなくなり、そっと桜羽の袖を掴んでささやいた。桜羽を挟んで反対側では、時羽がただ地面を見つめてうつろな目でぼうっとしている。静かすぎて心配になる程だ。
大人たちの話を邪魔しないようにするための配慮なのだろうか。だとしたら一体誰の教育の賜物なのか。子供は腹が空けば喚くものだと認識していた大人は、その態度に感心すると同時に、従順な様子になにか薄寒いものを感じた。
どれだけ抑圧すれば、どんな環境で育てばここまで従順な子どもに育つのだろうと。
「わたしも、おなかすいた」
どこを見ているのか分からず、不気味なほど気配のなかった時羽もぽつりとつぶやく。
声に出して意思表示するようになっただけマシなのだ。誰かが聞かなければ何も反応しなかったような頃に比べれば、子供らしさを取り戻している。
「そうだな。もうそんな時間だな。よし、じゃあ晩御飯の準備をしようか。私は狩りに出るが」
桜羽は時羽と花凛の訴えに快く答え、大人たちの話し合いはその流れでお開きとなった。私も、と答えた花凛も狩りについて行くことになり、時羽は残って薪になりそうな枝を集めたり、火をおこしたり場所の準備だ。
「俺はさっきの村に帰って有翼便を出してくる。どっかの誰かのせいで何も言わずに村を空けることになっちまったしな」
「桜羽様が狩りに出てしまわれるのであれば、白髪のお子様が一人になってしまう。それでは危険です。ですから私が残りましょう。勝手に勘違いして逃げ出したのはあなたですよ」
残りの大人たちはというと草花は場所の準備に加わり、宗次郎は何も言い残さずに飛び出してきた村に残る母親に少しでも早く自分は無事だと知らせるために、一つ前の村に戻って手紙を出しに行くと、座って尻についた土を払い伸びをした。ごきごきと骨がなり、長話で固まった体がほぐれていく。
宗次郎が出すと言った有翼便は、その名のとおり獣人から妖怪、混血の有翼種まで翼をもつ者たちが所属し、配達を主な仕事とする店のことである。空を飛んで配達ができるから、地上の飛脚が届けるよりもはるかに早く届く。急ぎの用がある人がよく利用する店だ。
自らの役割が決まったら、動き出すのは早かった。ここでうだうだしてる理由はないからだ。暗くなってしまったら、できなくなることは多い。時期的に陽が沈むのは比較的早い時間だし、とっととことを済ませることはいい点しかない。
子どもたちは大人に手を引かれ、それぞれの目的を済ませられる方へと三方向へ散っていった。
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