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白狐の道行き  作者: 大和詩依
第6章 逃走道中 後編
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第52話

「こいつは吸血鬼ではあるが父親が人間なんだ。半妖みたいなものだな。だから体質にも影響した。確かそうだったな」


「ええ。吸血鬼は本来血を糧にする。でも私の体は純血の血を受け付けなかったんです。桜羽様と出会った当初はまだ人間とそれ以外の共存は進んでいないどころか戦をしていました。この国でも。外の大陸でも。だから、人外であろうと人間であろうと存在するのは純血ばかり。食料が殆どなく餓死しかけていたところを救ってくれたのが桜羽様です」


 吸血鬼は人間よりも遥かに長い時を生きる。妖怪も同じだ。人間と妖怪、獣人、人外の共存が為されていなかったのは百年以上前まで遡る。つまり、それほど前から草花は桜羽に恩があったということだ。


 命を救うという行為は、時に絶大な恩となる。百年以上たった今でも今のように桜羽を慕っているというなら、草花にとって命を救われた事実は想像のできないくらいの恩なのだろう。


 宗次郎は、草花が桜羽に絶大な恩を感じていることはわかった。だが疑問が生まれる。どうやって救ったかということだ。純血の妖怪であろう桜羽の血が奇跡的に草花の中で拒絶反応を起こさなかったのだろうか。


「桜羽さんは純血の妖怪だろう。どうやって救ったんだ?」


「私は力の質的には純血の妖怪だが、一族の体質でそうなってるだけだ。うちの一族の根っこには人間確実に一人いる。恐らく家系図を辿っていけば、他にもいるだろう。私は真に純血と言えるかは微妙なんだ。だから、私の血を与えた。一か八かだったが、結果命は救われた」


 桜羽の一族のどこかに人間がいるが、体質で受け継がれるはずの人間としての力の質が消され、完璧に妖怪として存在しているということだ。


 でも血まではその体質に飲み込まれなかった。だから純血の妖怪としての力の質を持ちながら、血液は純粋なものではなかったのだ。


「血を与えだけなのに何でか分からないくらい懐かれてな。例えるなら呼んだらどこからでも駆けつけてくる忠犬みたいなものだ。な、変人だろ。どうせ血を与えるために切った傷だってすぐに治る。大した損失でもないのに、こんな最大限に好意を示してくるんだから」


 桜羽は本当に訳がわからないという表情を浮かべている。


(どうして分かってくれないのだろうか)


 草花は笑みを絶やさないその裏で、もどかしさを感じていた。食べても体が拒絶する恐怖。


 見つからない食糧。日に日に動かなくなっていく体。そんな矢先に差し出された、体が拒絶しない血液。


 それがどれだけありがたかったか。日に日に消えていく自分の命を嫌というほど感じるあの時間がどれほど途方もなく感じていたか。


――そんな感覚を遠ざけてくれたのは貴方だというのに。貴方がいう大した損失でもないものに、どれだけ私が救われたか。


 それが伝わっていないことが悲しかった。自らを傷つけてまで分けてくれた血は、共存が進み糧を得られるようになるまで分け続けてくれた血は、草花にとって自らの全てを差し出して、一生をかけて尽くし続けたとしても釣り合わないほどのものを与えてくれたのだ。


 草花は桜羽の為にその命を差し出すこととなってもためらわない。訳がわからないほど懐いているのには理由がある。草花だけが知っていた理由だ。


 桜羽と草花の中では命を救った・救われたという、立場が違うが同じ出来事に対して感じている重さが違う。あの出来事に対する価値観が違うのだ。だから草花の思いが伝わることは恐らくない。


 それでも草花にとって桜羽の敵であれば自分の敵であるし、桜花に危害を加えてこない者はどうでもいい。自分の中での他者の存在の基準は全て桜羽に委ねられている。


 草花は残りの一生をかけて、桜羽の障害になるものを排除していく。何人殺すことになっても、誰を傷つけることになってもだ。与えられたものに釣り合うとは微塵も思ってはいない。それでも、桜羽に尽くさずにはいられないのだ。

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