第51話
「大枠何があったかは把握した。次は草花だ。お前、宗次郎の村で何した? 何ぶちまけた?」
「軍服で騒がれたらアレだと思いまして、ちょっとだけ幻覚作用のある粉撒きました。人体含めて大体の生き物に幻覚見せる効果があるだけで無害ですよ」
「幻覚自体が有害だ馬鹿者!」
なぜか誇らしげに報告してくる草花の頭をはたく。
幻覚は何かしらの原因がなければほぼ見ることないものだ。人体に利益をもたらすかといえば、そんなことはない。むしろ不利益をもたらすことの方が多いだろう。それを有害と言わずしてなんと言うのだろうか。
「じゃあ俺が軍服に気付かなかったのは幻覚作用のある粉が原因か! 薬屋! てめえ表向き薬屋やってるだけで本業毒薬売り捌いてんだろ。常人はなんの躊躇いもなくあんな死にかけの村に幻覚作用ある粉撒かねえよ! 本当にこいつ味方でいいんだよな? 桜羽さん以外の有象無象に興味ねえって言ってたけど俺のこと邪魔だってサクッと毒盛って殺したりしねえよな?!」
「宗次郎。お前が私の味方である限り草花が牙を剝くことはないから安心しろ。」
「そうですよ。安心してください」
「本当に信用していいのか?! というか本当になんなんだこいつは!」
草花の有害な物を撒くことを躊躇しないような性格や行動のことを言っているのか。それとも草花本人の正体について行っているのか。どちらともとれるし前者ともとれる。
桜羽は草花と違って、むやみやたらと自分に近くないほぼ無関係の他者であれど、簡単に害するようなことはしてはいけないという常識程度は持ち合わせていた。だが桜羽は草花がためらいなく馬鹿みたいにどんな薬でも使うのは知っていたし、自分が身内と認めた者以外の他者に対しての興味の関心も薄いことも知っているが、正直言って草花に似た感覚の持ち主であったから、積極的に非難したことはない。
妖怪である桜羽は他者に害を与えることに対して、人間としての意識が強い者たちの中で育ってきた宗次郎よりも拒否感や罪悪感が少ないのだ。
だから、「この者はなぜ他人に害を与えるようなことを平然とやってのけるのか。なんなんだこいつは。どんな感性をしているのだ」という意味で聞かれるなんて思ってもいない桜羽は、後者について聞かれたのだと思った。
「こいつは海の向こうの大陸に多く住む吸血鬼というやつだ。人間の血を糧にするいわゆる人外と言われる奴らで、私ら妖怪に近い存在だな」
ーー俺が聞きたかったのはこういうことではなかったんだけどな
「へ、へえ。珍しい髪色してるとは思ってたけど、この国出身じゃあなかったとはな。ちなみに『無駄に懐いてる変人』って部分を聞いてもいいかい?」
自分が求めていたこととは的外れな答えが返って来た宗次郎は、一瞬どもってしまった。なんとか持ち直して、草花について探りを入れる。
ただでさえ危害を加えるような真似をされているのに、その相手について何もかもが分からない状態であることが恐ろしい。
得体の知れなさ。何をしてくるか行動の特徴が掴めていないから無限に広がる選択肢。本当に味方ならば危害を加えてこないのか。その判断材料になり得るものが一切ない。知らないということ自体が恐怖につながるのだ。
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