第47話 着物③
桜羽は気温の変化に強いから、着物が傷んでいたことも、この先今の生地では寒いであろうこと、きっと呉服屋に声を掛けられなければ意識をやることはなかっただろう。でも子供たちは違う。
今ですら本当は寒いと思っていて言い出せなかった可能性もある。もっと子供たちに気を配らなければと桜羽は反省した。それと同時に、自分とは違う生き物の世話をする繊細さと想像力の必要性を改めて認識した。
「おとは! これがいい」
最初に決まったのは花凛だった。選んだのは蘇芳色の着物だ。やはり候補を絞っていた赤色系の着物から選んだようだ。
「いい色だな。花凛の髪色とよく合う」
「うん!」
「ほら、着物を選んだら帯も選んでくると良い。ところどころほつれているだろう」
「わかった。ありがとう」
すでに嬉しそうな顔をさらに明るくして、呉服屋の女性の下に小走りで寄っていった。
(何色にしようか。どれもいい色をしているが薄い色だと返り血が目立つな。濃いめの色は……)
あごに手をあて、濃いめの色をした着物に視線をやる。あまり薄い色だと、山中や森の中でそこを根城にする山賊と遭遇したときの戦闘や、普段の狩りで返り血を浴びてしまうとなかなか水では落ちないため、人里に出た時に目立つのだ。なお、桜羽は圧倒的な戦闘力を誇り、自分が血を流すことは滅多にないものとする。
それでも返り血まで避けることは、自分一人ならばいいが、背後に守るべき子どもがいると、どうしても優先度が低くなる。いかに血が目立たないようにするか。ここまでの道中の悩みの種の一つだ。
「おとは。これどう?」
いくつかの候補に絞った濃いめの着物を見比べていると、今着ている着物の袖口を引っ張られた。引っ張ったのは時羽だ。反対の手には一枚の着物を持っていた。
「藤色の着物か。優しい良い色をしている」
「これ、おとはのこことおなじ色。ふじいろっていうんだね」
時羽が指で指したのは瞳だった。自分の瞳の色を見る機会なんてないに等しいから意識をすることもない。言われて初めて着物が自分が持つ瞳と同じ色をしていると気づいた。
「自分では見えないだろうが、時羽の瞳も同じ色をしているぞ。ほら、着物が決まったのなら帯を選んでおいで」
時羽と桜羽は同じ藤色の瞳を持つ。花凛もそうだ。だから今までの道中「よく似た親子」だといわれることが多かった。髪色が違う花凛は、父親の方の血が出たのだと思われていた。
しかし、親子であると血筋の関係もあり、面倒な勢力から狙われて子供達が危険に晒されてしまう。なんの関係もない孤児を拾った設定で、桜羽はただの保護者だと毎回訂正していた。それでも信じてくれない人がいる程度に時羽と桜羽は似ているのだ。
(今度鏡を手に入れる機会があったら見せてやるか)
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