第43話 帰路①
旅立ちを重ねるごとに、続々と帰路へ着く者が現れた。次の村までついてくる者もいれば、住んでいた村や縄張りにしていた山が近いと別れてそれぞれの道を行く者もいる。特に宗次郎と別れたあたりから後者の人数の増加は加速し始め、一日、また一日たつごとに逃走集団の規模は縮小されていった。
こうして新しい土地との出会いと同じ逃走者であった仲間との別れを繰り返しているうちに、施設からの逃走から季節はほんの少し進んでいた。数字にしてみれば約ふた月。いよいよ残っているのは時羽と花凛、そして桜羽だけとなる。
「二人とも、あの山が見えるだろう。あれを越えたら私が住んでいた村だ。山のふもとに村が一つあるからあと村一つと山二つ分だ」
現在いる村は、桜羽たちが目指す桜羽の故郷「染井集落」の数にすれば二つ前の村である。距離で考えるのならば村だけでなく山二つ追加で挟むため、まだ近いとは言えないだろう。けれど訪ねてきた村の数と、これから訪ねる村の数を考えるのならば、着実に近づいてきている。
今いる村は、村というより大通りといった方がしっくりくるかもしれない。人や荷物を運ぶ馬がすれ違えるように広めに整備された道の両端には、様々な店が構えている。料理屋、呉服屋、刃物を扱う専門店、宿。このような店が何件も連なっている。
それは、この村の位置に関係があった。この場所はあたりの村から村へと移動する際の中間地点に存在していて人流や物流が多く、人々が集まる場所であった。同時に、一休みするにはちょうどいい場所でもある。
商売を目的に自然と人が集まり、加えて交通網としてそのあたりを使う人々が協力して道を整備した。そして、整備された道の端に商売目的で集まってきた人々が店を構え、現在の村となっていったのだ。
桜羽は子どもたちと休憩がてらその村の甘味屋に寄り、外の長椅子に座って各々甘味を堪能していた。桜羽は子どもたちが食べ終わった頃合いを見計らってある提案をした。このまま桜羽の故郷である染井集落に来ないかと。桜羽が子どもたちの面倒を見ることは既に決まっている。だから、これは提案の形をしているが確認のような物だった。
もしも行きたい場所や訪ねたい人が存在するのであれば、桜羽の使い慣れた武器や装具は恐らく集落で保管されているだろうから、集落で準備を整えてからそこを目指す。そうでないのなら、そのまま定住する。いま示した選択肢はこんなものだが、もちろんすぐに決めなくてもいいと付け加えた。
花凛も時羽も帰る場所なんて憶えていなかったから、促されるまま桜羽についてきたが、その旅もようやく終わりが見えてきた。それはこの先どうするか、一つの大きな選択の時が近づいていることも示していた。
提案の形にしたのは、桜羽の言うがまま集落に身を寄せるのではなく、自分のこととして自らの意思で選んでほしかったからだ。もうここでは何も考えずに大人の言うことを聞いているだけという態度をとる必要はない。自らの未来は自らに選択する権利があるのだと伝えたかったのだ。




