第38話 疑似薬草
「宗次郎さんは疑似薬草ってご存知ですか?」
「俺は薬草は最低限しか知らないからさっぱりだな」
「でしたらお教えしましょう。疑似薬草とは、別に毒草としても薬草としても何の効果もない、いわゆる毒にも薬にもならない植物に、薬草としての効果を付与したもののことを言うんです。あまりやる人はいませんが、栄養が足りなくて十分に育てていない植物を使って作る人もいます」
「ようはさっきの薬草の効果増幅なんかと似た理論か?」
「飲み込みが早いですねぇ。その通りです。枯れた土地と同様、足りていない部分に魔力、妖力、呪力、霊力など、なんらかの力を用いて、薬草としての効果が発揮できるようにするんです」
「薬草があるのにわざわざ擬似的なものを作るのかい? 効果増幅ならともかく、薬草自体なら行商人や他の薬屋から買ったり、個人で依頼受けてるやつなんかに依頼したりした方が早いんじゃないか?」
「そこら辺に生えてるものなんかはいくらでも手に入るからいいんです。購入や依頼で手に入るものも。でも海を越えた外の国にしかなかったり、とても危険な場所にしか生息していない薬草はどうでしょうか。例えば……」
薬屋は聞いたことのない薬草の名前と、その薬草を使って作られた薬がもたらす効果をいくつか挙げていった。その生息地はどれも妖怪だろうが、獣人だろうが行くことは困難だと予想される場所ばかりだ。
「薬草採集の依頼料と、その薬草を使って製作した薬で得られる収入が釣り合わないことがあったりするので、そのような時に使いますね。疑似薬草は作るのに手間や技術は必要ですが、本物を採集に行くよりはマシですから」
同じ効果を持つ似たような薬草で代用できるのなら、わざわざ危険を冒して取れるかも分からない薬草を探しに行くより、疑似薬草を使った方が確かに効率がいいだろう。薬屋の説明にも納得だ。
思わず聞き入ってしまった薬草についてのもはや講義も、どうやら終わりが見えてきた。目的地である川が近づいてきたのだ。わずかだが、自然の中で水が流れる音がする。
川といっても、宗次郎がまだ村に辿り着く前、逃走中に渡ったそれなりに勢いがあって、一足に飛べない程の川幅があったあの川ではない。そことはまた別の川だ。こちらのは、裸足で適当に歩いても渡り切れるくらいの穏やかな小さな川だ。
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