第30話 枯れかけの村①
今日の目標は、日が登り切る前に川を越え、さらに森を抜けた先にあるという村へ到着することだ。偵察の話によるとそこまで遠くはないようだった。そう困難な目標でもないだろう。
「時羽。食材や薬草の調達はどうだった」
桜羽はそういえば朝食の後あまり話せていなかったと思い出し、隣を歩いていた時羽に話しかけた。
「たくさんとった。でもほとんどどく草」
まだ舌足らずな話し方でちいさく時羽は答えた。年齢の割に幼い話し方をしているが、おそらく施設にいた時は話す機会が少なく、今周囲の人と話すことで一生懸命練習しているのだろう。
桜羽はそれに気づいていて、積極的に話しかけていた。理由はそれだけではないが、理由のうちの一つだ。
「そうか。でも必要なものを見つけられるのはいいことだ。自分で見つけたのが毒草だと分かっている点もすごいな。教えてもらったのか?」
「うん。教えてもらった」
「えらい! きちんと与えられた役割をこなせたな。与えられたことを実行するだけでも凄いのに、遂行までするなんて。教えてもらったことを覚えてることも最高にいいな。本当にすごいぞ」
「じっこう? すいこう?」
「実行はやってみることで、遂行はやりとげることだ。今回は、実行が薬草や毒草、野草なんかを探したことで、そして見つけたことが遂行だな」
桜羽は大人の一歩に、二歩足を動かして必死についてきていた時羽を抱き上げて、うでにぎゅっと力を込めて抱きしめた。
「これから沢山のことを学んでいくんだぞ。どんな知識でもそれはきっとお前を助けてくれるからな」
「うん」
時羽は自分がされている行為がなにかよく分かってはいなかったが、暖かいものだと思った。暖かいがどんなものか明確には分かっていない。でもそれを感じた時、自然と浮かんできたのがその言葉だった。今まで大人たちが自分にしてきた行為とは違うものということだけ感じていた。
そんなことをしているうちに、偵察で見つけた川が見えた。幅は一足で跳べるほどではないが、途中に人が一人立てるほどの小さめの岩がいくつか点々とある。こちらの隙間は子供が跳んで移動できるくらいのものだ。川の勢いはまずまずで、岩の上を飛ばなくても大人であれば、足に力を入れて立てば流されないだろう。岩の上を通っても、川の中を歩いても川を渡り切ることは可能だ。
無論どちらにも危険はある。岩は飛ぶのを失敗すれば体を打ちつけたり、鋭い角で切り傷を作るかもしれない。川の中を歩いて渡るとなると、今の季節は冬であり、無駄に体温を下げることや余計なエネルギーを消費すること、動きの鈍化に繋がる。
少し話し合った結果、岩の上を飛んで怪我をすることはあくまで可能性だが、冷たい水に足を入れて体温を下げることは避けられないことから、岩の上を跳んで渡ることになった。
大人たちは妖怪の血が濃いものが多く、身体能力が高いため身軽に飛んで対岸まで渡り切る。時羽と花凛は身体能力は同世代の子供達と比べると抜群に高く、この程度の岩を渡ることは容易ではある。しかし万が一の可能性を考えて冷たさや寒さに耐性がある桜羽が川の中に入って隣につき、足を滑らせたらすぐに支えられるよう補助をし、一人ずつ渡っていった。
そうして川を渡りまた少し歩いたところで、太陽が空に登り切る前には村に着くことができた。無事目標達成だ。
読んでいただき、ありがとうございました!




