第28話 不審な視線①
次の日の朝、一行は追手の知らせを受けて睡眠途中で飛び起きることもなく、十分な休息を経て起床した。朝食時、夜間見張り担当者から報告があるが、今日も獣も追手もなく平和だったとのことだ。ただ、完全な異常なしではなく、ほんの少しの違和感を感じたと担当者は少し戸惑いながら言った。
「なんとなく、誰かに見られている感じがした。目視で確認したところ不審者も、施設からの追手も見受けられなかったから気のせいだったかもしれないが」
頬張っていた食事を飲み込み桜羽が聞く。
「潜伏に長けた追手の可能性は?」
「恐らくない」
「野生の獣は?」
「それだったら君が真っ先に気づくだろう、桜羽。それに野生の獣は今や貴重な栄養源。寒さが厳しく、多くの獣が冬眠している地域を抜けた今、ようやくありつけるようになった獲物だ」
桜羽たちが逃げてきた施設は、寒さが厳しい地域にあった。冬である今、多くの動物たちは冬眠をしている。逃走中、南下していくことで寒さがあまり厳しくない地域に出て、ようやく動物という貴重な栄養源を得ることができていた。だから、狩りができるものが居るにも関わらず、肉が食事に出ることがついぞ昨日の晩御飯までなかったのだ。
見張り担当者は続けた。
「飢えた他の奴らも普段以上に敏感になっているのに誰も気づかなかったなんてことはないだろう」
そう言って見張り担当者は朝食を一口食べた。
見張り担当者は追手の可能性も野生の獣の可能性も即座に否定した。今逃走している一行は、妖怪としての血が濃く、能力が高いことに目をつけられて捕まっていた者が多い。普通の人間よりも敵意に鋭いことは一目瞭然である。それに加えて栄養が不足している飢餓状態だ。自ら寄ってきた栄養源を、睡眠に意識を割いてみすみす逃すことはないだろうというのが見張り担当者の考えだ。
「昨日の見張りは俺以外にも感知が得意なやつがいたが、何も引っ掛からなかった。だが放置するには違和感が大きかった。一応報告しておく。みんな、気に留めておいてくれ」
朝食をとりながら、報告を聞いていた大人は皆頷く。時羽と花凛は箸を使って食べることはまだできず、手先が器用なものが木を削って作った匙で食事を食べていた。食べることと話を聞くことを同時に出来ず、食事に集中している。周りの話は一切耳に入っていないようだった。
雑談ならば聞き逃してもいいが、今は全体に向けた注意喚起である。聞き逃しては危険に晒されることもあるだろう。花凛と時羽の間で食べていた桜羽が、簡単にまとめて注意するようにと促していた。
食事が終わった一行は人がいた形跡を追われないように念入りに消す者、周囲を軽く回って薬草や食材を採ってくる者、傷の手当てをする者に分かれた。桜羽と花凛は傷の手当て、時羽は採集だ。
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