表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白狐の道行き  作者: 大和詩依
第8章 孵化
100/101

第98話 あそびましょう

 時羽はよほど疲れていたようで、あの後三日間は眠りっぱなしであった。ちなみに寝始めたのは冬井家であったが、経過観察もあるため春谷家へと戻されていた。移動しているその間も時羽も花凛もぐっすりであり目を覚ますそぶりは全くと言っていいほどなかった。


 勿論桜羽や翡翠は毎日見舞いに来ていた。そしてもう二人、意外な見舞い人がいた。それはあの秘密基地で子供たちを見つけた楓と涼であった。


 毎日春谷家に顔を出し「あいつら起きた?」と紅音に聞く。

返事は三回は「いいえ」だったが、ついに四日目、楓と涼は初めて起きている時羽と会った。いつも布団で横になっていた時羽が、布団の上ではあるが身を起こしていたのだ。


 寝ている間に体を拭かれ、髪を洗われ、清潔な着物へと着替えさせられていた時羽をみて、楓はあの日、秘密基地でこの二人を見つけた日に積もっていた雪を思い出した。


「きれい……」


 楓は思わず呟いてしまった。ハッとして周りを見るとニヤニヤと笑うのを堪えている紅音と涼がいた。もちろん「今のは違くて」「あの、その!」「ああ! もう忘れてください!」とかなり混乱していた。


 その時だった。新雪のように美しく冷冷たる声が聞こえてきたのは。


「あの、わたしたちをみつけてくれたのはあなた?」


「そうだけど」


 自分と近しい年齢の子供は集落には涼しかおらず、集落の外に出ることもないから近しい年齢の、しかも綺麗な女の子と話したことのなかった楓はそっけない態度をとってしまう。しまったと思いつつ今更態度を変えるのもなんだと思い、相手の反応を待つ。


「ありがとう」


「見つけたのは俺と涼だけど、あんたを助けたのは翡翠と紅音だ。俺たちは何もできなかった」


 ただ泣き喚くだけで何もできなかった。その時の無力感と後悔は今でも胸の中に残っている。


「でもみつけてくれた。だから、ありがとう」

 

「ど、どういたしまして……あのさっ、もし傷が癒えて外で遊べるようになったらさ、一緒に遊ぼうぜ。俺たちいつも二人だけで物足りなくてさ」


「ごめんなさい。わたしはつよくならなきゃいけないの。だからしゅぎょうがある。それにせんねんしたいから」


「そ、そうなんだ。俺は途中でやめちまったけど、頑張れな!」


「うん」


「じゃあ修行に必要な刀はうちで作ることになるね」


 涼が自分の番が来たとばかりに話し出す。


「刀ができるまで二週間くらいかかるしそれまでに遊ぶのはどう?」


「でも、たいじゅつとか、ごしんじゅつとか、みひとつでできるものもあるでしょ。だから……」


答えに瀕した時羽は紅音の方を見る。


「あと一日は安静にしときな。明日以降なら行ってもいいぞ。こいつらがいう遊ぶことは野山を駆け回ることさね。体力の回復くらいにはなるんじゃないのかい」


「たいりょくのかいふく……」


「そうさ。ずっと寝てたんだ。体力くらいおそらく落ちているだろう。遊ぶのも修行と思って言ってきてみたらいいんじゃないのかい」


「でも、かりんは? まだおきてないよ」


「起きたらすぐに教えてやるさ。お前はたくさん遊んでかりんに元気になった姿を見せてやんな。きっと花凛が機能回復訓練をするようになった時、頑張る動機になるんじゃないか?」


「わかった。あそぶ。やってみる」


 楓と涼から歓声が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ