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魔導図書館のroundabouts  作者: 飯塚 喆
魔導図書館のroundabouts
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DAY2:文字のなくなった世界 

「くはっ!」


 心停止から息を吹き返した死人のように目覚めたのはオーナーだった。窓から朝の光が差し込む。

 ここは奴の気配を探知して移動するので、赤い瘴気はやってきていないようだ。

 体を起こす。

 図書館のロビーに仰向けに倒れていたのだ。

 倒せなかったが、どうにか奴から逃げることには成功したのだろう。

 

「また、気絶か…ところで、2人は…」


 姿が見えない。転移が成功しているのなら、一緒に倒れているはずなのだが…

 一目散に図書館の廊下を駆ける。書庫の隅々まで探すも、気配すらない。

 だんだん不安が膨れ上がる。いつか破裂しそうだ。 

 

(そうだ、住処の方の離れは?!)


 オーナーは図書館の裏口から飛び出した。息を切らしながら走り、ガチャリと離れのドアを開ける。

 リビングへ出ると、ソファーに横たわる男。そして、そばで心配そうに突っ立っている白髪の子供がいた。


「ハアハア…!2人とも無事だったのね!よかった!」


「ううん。ちがう。僕が守りきれなかった。ルーインが…

 お姉ちゃんは生きてるのがわかってたから手が回らなかっ

 た。ごめんなさい…」


 悲しそうな目で視点を下に落とす。その目線を追って、ソファーに寝ているルーインをオーナーは見た。

 少年が回復魔術を使ったのだろう。傷口はいえているだろう跡が見えるが、服は所々穴が空いていて、血が滲んでいる。

 

「そう…私のことなんていいから…」


 彼の悲惨な状況を知り、瞼から出そうになる水分を必死に堰き止めて拳を握りしめた。私がもっと強ければという悔恨の気持ちと、どうしようもない絶望感が込み上げる。

 それからずっと2人はソファーの前に椅子を置いてルーインの看病をすることにした。

 目覚めることはなくとも、彼の呼吸と体温がまだ生きていることを示している。

 

 いつしか辺りは刻々と暗くなり、オーナーも少年もルーインの上で突っ伏して寝落ちしてしまった。

 もうすぐ真夜中。

 不意にルーインは目醒める。目をパチパチさせて、天井を観察する。

 腹上に重量と感じたので首を横にすれば、自分を看病してくれたであろう人たちが、ブランケットの上で突っ伏して睡眠を摂っている。

 起こさないようにそっとソファーから抜け出る。

 身体が回復したとしても体の痛みは消えない。でも、今すぐにやらなければいけないことがあった。糸が切れかけたマリオネットのように体を引きずり、彼女の前で呪文を呟く。


貪り喰らう者の歪み(アムトセヴァ)

 

 それは、夢のあるものではなく、呪いの効いた呪文。

 人に慣れすぎてしまった彼にとって、そう、咎であるかのような。混沌の果てに堕ちた幻獣の末路。

 何も知らない彼女の隣で漆黒の穴が空いて、最終手段の本が顕現する。クラインで生み出した亜空間の入り口を喰らうことで本を取り出したのだ。

 ルーインは皮肉だなと思った。昨日、怪物が成長しなければこんなスキルを得ることなどなかったのに。

 本を抱え、音をコロして離れと敷地を出る。振り返れば、夜の静けさに包まれた立派な図書館が見守ってる。

 森を進みながら感慨に耽り始めた。

 なんで自分が“奴”なのか、と醜悪さを恥じる。

 元オーナーの手違いで感情というバグが生まれて、それに体が耐えきれずに魂だけが飛び出した結果が僕。そして、人として活きるために嘘で塗り固めたのが今の僕。

 アレ?と滑稽なことに気づいた。

 結局のところ、過去も現在もどっちにしろ醜いじゃないか!と嘲笑する。

 こんなことになるなら、感情が発露する前のあくまでシステムだった自分のままでよかったのに。古のように食えと言われたように魂をただひたすらに、野生に任せておけば……

 だから、罪滅ぼしの決着は自分でつけなければいけない。

 誰かに苦しい顔をさせるのは嫌だ。自分が犠牲になっても死ねるのなら本望。

 決心はついている。ルーインは力強く走り始める。

 しかし、その行動は拒否された。


       パシッ!


 腕を掴まれたからだ。


「やーっと捕まえた。あのね、バレるっちゅーの!

 寝てても警戒くらいしてるわよ。防犯用の術式がうるさいってのな。」


「…離してください。」


 ルーインは今まで一度も表情に出したことのない睨みをきかせて腕を振り解こうとしている。だが、絶対に彼女は離そうとしない。


「イヤに決まってるでしょ。

 あのね、凄くありきたりなこと言うけどさ、貴方が死んだ時、遺された人たちのことどうすんの?」


「別にどうでもいいです。

 どうせ長くても10年くらいすれば人間は忘れる。」


「少なくとも私は忘れない。

 あとね、時々約束とか後ろめたさのせいで平和とか世界とかどうでも良くなるのよ。そういう生き物よ、人間は。」


 何故だかわからないが、自信満々な様子を見せている。

 人になった獣には理解が及ばなかった。

 こんな状況なのにそんな明るくいられるのか。

 ただ喰らうか守る存在だった者の側になってしまったからこそ意味を見出せない。

 そんな彼が混乱して立ち往生していると、突然膝打ちを腹部に受ける。そのまま滑らかな動きで首四の字固めをお見舞いされた。

 やばいやばい。息ができない。仮にも怪我人なのに、このお方は加減を知らないようだ。

 思わず、手から本を落としてしまった。


「ギブ?」


「ギ!ブ!」


 首を絞める足の力が緩まっていく。

 すかさずオーナーは本を拾った。


「はいゲットー!

 自爆ごっこはおしまいね。

 んじゃ、帰りましょ。ほら」


 ルーインに手を差し伸べて立ち上がらせた後、事が済んだからもう飽きた。と表現したように身を翻して帰り始めた。

 

「でも、明日までに奴を倒さなくちゃいけないんですよ?」


「あぁ、そのことね。

 クソ親父に逃げてもいいって言われたからその通りにしよ

うと思って。最初は絶対嫌だったんだけどね。

 無理ゲーじゃん?アレ。昨日戦闘して思い知った!」


 なっ…それはいけない!とルーインは心の中で批難した。

 飼い主が現れなければいずれ世界を食ってしまう。

 人間はそんな生き物だなんてオーナーは言ったが、それでは意味がない。


……だんだん怒りが込み上げてきた。


 もう一度あの本を奪ってまで止めなければこの世界が終わる可能性が出てきてしまう。

 あんな呑気なことを言うなんて失望した。

 魔力を手に込め、後ろから襲撃する。

 オーナーは気づいていないだろう。

 そう確信した。

 だが、彼女の反応速度は凄まじかった。独楽のように回転し、音速の足蹴で攻撃をカットした。

 

「ルーイン君、何?」


「やっぱり、ダメです。

 貴方を殺してまでそれを奪わなければ世界が死ぬ。」


「ふーん。できるならやってみれば?」


 二人の光撃が鮮やかに交差する。

 もうすぐ、日付が変わろうとしている…

ぽいっと言うことで書き溜めたやつを一気に解放です。ゲートオープン!よろしくね!ということです。金星をブッパしたらどうなるんでしょうか。ってガスだっちゃ。にゃんにゃん♪

(特別誤訳:冬って本当鬱になりますよね。私、お風呂にすら入れなくなってしまって。結構ガチでやばかったんですよ。ま、どうにか立ち上がりましたけども。)

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