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魔導図書館のroundabouts  作者: 飯塚 喆
魔導図書館のroundabouts
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DAY1:概念だけで殴る

 運命が始まる。

 紅い月が一つ、ぽっかりと霞んで浮かぶ。

 白銀か黄金のハズの月光は黒い森の瘴気に晒されて、血の色を空に溶かす。

 木のように粛々と息を殺す三つの影。


「って!なんでキミついてきたのよ!?」


 我慢出来ずにツッコミを入れるオーナー。


「ひとりはさびしいもん…」


「そういう問題じゃないわ。私が言いたいのは“死ぬかもしれない”ってことなの。」


「まぁまぁ…もうしょうがないことですから。何かあったら僕が死んでも彼を守りますし。」


 妙に落ち着いた声でルーインは諭してくる。実際、もう戻る手段が緊急時のプリセット術式しかないから、その通りだけど。


「ルーインくん。その冗談、洒落になんないからやめて。今日中に仕留めるのがベストなんだから、負けてらんないわよ。」


 一度倒したら止まらないドミノのように、あーだこーだと駄弁っていると、ある時を境に森中の生き物の声が一斉に亡くなった。


「……ッ!」


 自分たちの心音が聞こえるほどに静まり返る。

 神経を伝う冷たい緊張。

 尖らせた意識の先端には、巨体が蠢く轟音と気持ち悪すぎる地を這う音がして、五感を抉ってくる。


 何か、やってくる。


 オーナーは必死に起爆装置のスイッチを握りしめ、トラップの仕掛けを凝視する。

 その仕掛けとは…


______________パンツよ。


「パンツですか?!」


「ええ、そうよ。3人のパンツをありったけ使うの」


 遡ること今日の早朝。

 二人は罠の仕込みの会議をする。

 オーナーは魂弴力については不器用だが、魔導については世界レベルの才能を持っているので、本とエレメントのサポートさえあれば前例のない術式の合わせ技も1時間で組み立てられる。

 逆にルーインは魂弴力と魔力総量はどこかの大賢者かよ!と唸りたくなるスペックであるが、魔導が貧弱なので技を発動するのに時間がかかる。

 こうして今まで弱点を補ってきたことは今回も例外ではなく、1日で術式を完成させてしまうほどに効果を発揮する。

 ただ、罠には最大にして最後の課題が残っていた。


『奴を引きつけるためにはどうすればいいか』


 奴を絶対に殺す=不死の否定のためには観測者である我々が、直接特殊攻撃することが必須である。

 にもかかわらず、奴は高い精度で魂弴力の残滓を追ってくる。隠れるのは難しい。

 引きつけるための餌とかがあればいいのだが、魂を喰わせるなんてことはできっこないし…

 数分考えた結果、オーナーがした爆弾発言によって万事は解決した。人間にとって大切なものを捨てて。

 オーナーが何故そんな思考に至ったのかは理解不明だが、確かに理論的にはほんの一瞬、奴を騙せる可能性を持っていることに変わりない。

 パンツは日常において取り込んだモノ・生み出したモノの終わりの大部分を司る部分にずっと触れているから魂弴力が強く染み込んでいる。

 これを利用するわけだ。


「あの、オーナー。すごく失礼なことを伺うのですが。」


「何か?」


 ルーインは多少のリスクを払っても後で大惨事にならないよう、断りを入れるため、恐る恐る口を開く。


「抵抗とかないんですか?その……えっと…自分のパンツを使うのとか…」


「プッ、ハハハハハハハハ!!」


 突然、オーナーはド派手に笑った。笑いすぎて椅子から落ち、床で腹を抱えて転げ回っている。追い詰められすぎて壊れてしまったのかもしれない。

 ルーインはちょっと心配になった。

 だがやがて笑いがおさまり、喋り始めた。


「あーあ笑った笑った。こんなやばい状況なのに、罠が成功するかどうかじゃなくてソッチを心配するなんてルーイン君どんだけ紳士なのよ!やっぱり貴方のこと好きだわ」


「え?」


「え?あ、違う違う!!そうじゃなくてキャラクター的に好きというか、別に恋愛とかじゃなくて!!!ちょっと危機的状況すぎておかしなことを口走っちゃっただけだから!」

 

 彼女は急に顔を赤らめて、早口で喋りきった。

 その様子からやれやれと肩をすくめる。


「いいですよ。僕もあなたと一緒にいると楽しいですから。この戦いが終わったら……」



 そして、今に至る。

 このパンツトラップに全てがかかっている。無意識にパンツを握る手に力が入る。

 トラップの仕掛けはこうだ。

 まず、私が今握っている自分のパンツに人間が常時出している値に近い魂弴力を付加し、空中に浮かせて奴を誘導する。

 次に一定地点まで誘導できたところで、他のパンツを特製のエネルギー遮断容器から取り出し、確実な引き込みを。最後に奴が直接結界内に入ってスイッチを踏めば成功する。

 トラップの最終確認をしつつ、じっと奴が現れるタイミングを見計らう。

 もうすぐそこにいる。

 漆黒から生み出される混沌の証。

 実に気配が濃くなった。寒気が止まらない。

 木陰から姿を確認する。


_____その容姿は一昨日の面影を全く感じさせなかった。


 全長3mほどで赤黒いゲル状の体皮に覆われ、至る所に赤い目玉が埋め込まれている。

 そしてスケルトンと真通骨の書を取り込んだ影響か、ゲルの中で鰐のような骨格が形成されている。

 少しでも凝視すれば、精神が汚染される。

 目線を慎重に逸らし、奴の前にパンツに持っていたパンツを投げつけた。

 込めた力を操作して誘導する。

 一瞬だけ力の関係でこちらへ向かって来たが、どうにかパンツの方に意識が入ったようだ。

 悪寒と脂汗が止まらない。それだけではない。固唾を飲むことさえも許されない。

 大きくなった分、素早さは失っているようだ。のそのそと四足方向でゆっくりした動きで追っている。

 が、絶対にあいつはヤバい。侮ってはいけない。

 結界に接近してきた。誘導は今のところ失敗していない。

 パンツの魔力に反応して大量のパンツが入ったボックスが開く。

 途端に、奴はボックス目掛けて頭を突っ込んだ。魔力でパンツを動かす前に。

 コイツ!とオーナーは歯を噛む。動きが遅いのではない、パワーを温存・蓄えていたのだ。

 残ったのは誘導用に使ったパンツだけ…

 一か八かで魂弴力を出し切る。

 スピードを最高速にして結界まで飛ばした!

 奴は片足で地面を踏み潰し、パンツまで飛ぶことで追いつこうとする。

 踏み切った振動で木々は倒れていく。まったくもって物理法則を無視した動きである。

 だが、パンツの方が一足早かった。

 奴が着地したのは結界内。

 蒼い放電が奴を包み込んで術式を地に示す。

 地面は陥没し、黒い穴が術式に変わってあらわれた。

 底無し沼のように奴を沈めていく。

 奴は抜け出そうとするが、足掻くたびに体の自由は効かなくなっていく。

 

「キシャアアアアアアア!!!」


 黒い穴の扉が消滅する瞬間、獣のような断末魔を森中に響かせ、異次元の彼方へと消えていった。

 術式の発光は終わり、血の色を模していた正気は消えた。

 月は元の黄金色へ戻っていた。


「あ、もしかして…私たち…倒したの?!やっ……」


 やったの「た」までオーナーはきっと言いたかっただろう。上手くいくことなんてそうそうない。

 臨戦態勢に戻す。

 結界の中の空間がねじ曲げられ、クラインの穴は強制的に開いた。勢いよく奴は飛び出した。

 術式が再発動し、再び放電が奴を包み込んで縛っている。


「くっ!術式リア全開!

 連撃魔導を指定対象αにロック!

 発動範囲を結界内に!カット分の魔力を出力強化に回す!

 _______当たって砕けまくりなさい!

 八連撃大魔導!

 神の毛(コミティス)


 彗星の如く、氷の塊に青い炎が覆う。

 ハンマーのようにソレが獣にぶつかる。

 衝撃で砕けた氷片は空中で再構成され、8つの氷柱となってやつの体に降り注ぐ。

 一本、二本、と黒い穴に押し戻す。

 しかし、すんでのところで決定打が打てない。

 操作のためにかざした手が震えている。

 ルーインと少年には十分魔力のバックアップをしてもらっているのに!

 奴と氷柱が拮抗している。

 あああああ!!オーナーはただ叫んで堪えるしかない。

 でもそんな苦痛はすぐに終わった。

 震えていた手は軽くなった。


「は?」


 答えは簡単。

 奴が氷柱を取り込んだから。

 この最大火力でぶっ放した必殺技も学習されてしまったらしい。飲み込まれた氷柱は赤黒い体に溶けていった。

 黒い穴は閉じてしまった。

 結界を突き破って奴は自由になった。

 月がまた霞む。

 奴は体中の目玉をギョロリとこちらに向けた。さっきの技で明らかにバレてしまった。

 3人とも背筋が凍って一歩も動けない。

 対して、怪物の体は赤黒い透明なゲルから濁り始めた。同時にそれこそ、本物の彗星のような氷塊を頭上に生み出している。魔力を通すときに怪物の体は濁るらしい。とオーナーは分析する。

 そんなことは今関係ない。ただ、現実逃避したかっただけなのだ。

 意識を前に戻せば、死がある。

 こんなにもあっさりと。知らなかった死の輪郭が見えてくるのだと驚く。

 あんなの食らったらひとたまりもない。確実に殺される。

 

 そうして、彼らに向かって彗星は振り下ろされた。

 ルーインだけは我を思い出して緊急用の転移術式を作動させる。だが、発動に時間がかかるという大きな欠点がある。

 目の前にあるのは絶望の塊。不死の否定まで持っていくことは叶わず、計画は泡沫と化した。

 逃げる以外に方法がないのだ。

 時間を稼ぐのは難しい自分の命をリソースに防御を張るしかないだろう。

 心臓に手を当て、エネルギーを取り出しにかかる。

 いや、だめだ。間に合わな_______


「源は太陽にして、司るは再生。守りは命の証。今ここに示さん。…太陽の運営(ケプリ)


 白髪の少年が詠唱し、彼らを包み込んだのは燃える半透明のドーム。

 太陽の再現というべきその魔術は、彼の切り札の防御奥義である。

 彗星ですら、突っ込めば消え失せる。巨大な氷はゴリゴリと削れていく。

 耐えれば、生き延びれる。

 しかし、それでもなお、難しかった。

 パワーで負けそうなのだ。

 防御壁はヒビが入り始めていた。

 

「……………………」


 少年は無言でひたすらに術式が起動できるのを待つ。

 

「あと10秒!」


 ルーインのカウントダウンが励みになる。お姉ちゃん…もといオーナーにはもうパワーが残っていない。なら弟が頑張るしかないだろう!

 

「残り5秒!」

 

 まずい、補強スピードが向こうのパワー供給と釣り合っていない。どうにか持ち堪えなければ!0.1秒の差異でこちらが負ける可能性が!

……もう遅かった。3人は散り散りに吹き飛ばされる。

 少しばかり遠くで、星が落ちる音と、無数の氷の針が降り注ぐ音がした。

 

「ごめん、な、さい……守れなかった」


 悔しさの籠った声を上げて、意識は滅された。

本当にお久しぶりでございましてですねーもうね、本当にやばたにえん。オーナーさんはフラグ立てまくるしwwどうしたもんですかいね。あはは。

(特別誤訳:topicsやめました。理由はなんとなくですヨ。)

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